研究課題
本研究は、腫瘍抑制遺伝子であるCYLD を基軸としてEGFRの動態制御機構を解明し、有効な EGFR標的治療戦略を開発することを目的とする。CYLDの発現を抑制すると、EGFRが脂質ラフトに拘束されることでエンドサイトーシスが阻害され、CTX耐性を示すことが判った。さらにコレステロール除去によって脂質ラフトを崩壊させると、エンドサイトーシスの回復によりCTX耐性が克服された。そのため、CTXとコレステロール降下薬との併用は治療効果の改善に有用であると考えられる。しかし、CYLDがどのように脂質ラフトにおけるEGFRの動態を制御するのか、コレステロール降下薬の併用がCTX 感受性増強や耐性克服に有用かどうかはまだ明確でない。申請者らは脂質ラフト上でCYLDとEGFRが共局在していることを明らかにしている。脂質ラフトにはチューブリンが局在しており、CYLDのドメインのひとつであるCAP-Gly1はチューブリンや微小管の動態を制御していることが知られている。そこで、ラフトにおけるCYLDとEGFRやチューブリンとの相互作用やチューブリンの修飾を解析し、CYLDの発現の有無が脂質ラフト上のチューブリンの動態にどう影響しているのかを解析する必要があると考えた。野生型および各ドメインを欠損したCYLDをHNSCC細胞株に発現させた細胞株にスクロース密度勾配超遠心分離法を用いてそれぞれの細胞成分を分画した。各種解析により、脂質ラフトは細胞膜と細胞質に多量に存在していることがわかったが、CYLDやEGFRの検出には至っていない。また、申請者らは細胞株でコレステロール降下薬がCTX 耐性を克服されたという結果を得ているため、前臨床的治療研究としてCYLD 発現を抑制した HNSCC 細胞株をマウスに移植し、各種コレステロール降下薬がCTXに及ぼす効果を現在検討中である。
3: やや遅れている
2022年度は細胞分画における脂質ラフトやEGFR、CYLDの局在を解析するに至らなかった点ではやや遅れているといえる。当初の想定よりもかなりの細胞量が必要であり、解析に必要な濃度を確保する必要があった。その一方で、野生型や変異型のCYLDを導入した細胞を使用し、質量分析装置による解析やin vivo解析への準備を進めている。
本研究はCYLDがどのように脂質ラフトにおけるEGFRの動態を制御するのか、コレステロール降下薬の併用がCTX 感受性増強や耐性克服に有用かどうかを解明することを目的としている。現在、in vitro解析ではコレステロール降下薬の効果を実証できているもののin vivo解析ではまだ実証に至っていない。また、実際の患者の生検組織を用いて腫瘍細胞における脂質ラフトやEGFRの動態を解析するとともにCYLDの発現量との相関を確認し、CYLDがバイオマーカーになり得るかどうかを評価する。
研究が思うように進まず、今年度使用額は予定より少額であった。次年度に繰り越し、研究を発展させる予定である。
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Leukemia
巻: 36 ページ: 2605-2620
10.1038/s41375-022-01708-9