研究課題/領域番号 |
22K21021
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
稲葉 陽 岩手医科大学, 歯学部, 常任研究員 (00963365)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | エナメル質 / エナメル質石灰化 / エナメル芽細胞 / エネルギー代謝 / RA / SA |
研究実績の概要 |
エナメル質石灰化を担う成熟期エナメル芽細胞は、波上縁構造をもつ細胞集団(RA)と持たない細胞集団(SA)が周期的に交互に出現する。しかしこのRAとSAの周期的出現 (RA-SA サイクル)がどのよう制御 されているのかはほとんど理解されていない。申請者は、これまでの研究からRAは酸化的リン酸化、SAは解糖系優位のエネルギー代謝状態であること、さらに低酸素環境下ではRA とSA の周期性に乱れが生じると仮説を立てた。本研究では、成熟期エナメル芽細胞RA とS A の周期的出現とエネルギー代謝の関係を解明するとともに、この破綻による成熟期エナメル芽細胞への影響とエナメル質形成不全との関連を明らかにする。本研究は、エネルギー代謝という新たな視点から、歯の発生・硬組織形成メカニズムの解明を目指すものであり、エナメル質研究における新しい研究分野を開拓するとともに、原因不明のエナメル質形成不全の病態解明や、診断・予防・治療法の開発に新展開をもたらすと考える。 本年度は、マウス切歯の免疫組織学的解析から、RAでは酸化的リン酸化マーカーが、SAでは解糖系マーカーがそれぞれ強く発現していること、電子顕微鏡解析からRAでは活性化したミトコンドリアがSAにくらべ多く発現していることから、RAでは酸化的リン酸化により多くのエネルギーが産生、消費されていることがわかった。成熟期エナメル芽細胞細胞株の実験では、通常酸素濃度で酸化的リン酸化優位の細胞と解糖系優位の細胞が両方存在している一方、低酸素環境では多くが解糖系優位のエネルギー代謝状態にシフトすることがわかった。また低酸素にするとALPの発現やAlizarin red染色陽性細胞の数が減少することから、酸素濃度を介したエネルギー代謝状態がRA-SAのシフトを変化させてエナメル質石灰化の調節に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、マウス切歯におけるRA-SAの酸素状態、エネルギー代謝特性を明らかにする実験、成熟期エナメル芽細胞株を用いた低酸素環境の影響をみる実験が進んだ。また次年度にむけた動物実験の準備もすすめた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は計画通り、低酸素飼育のマウスの組織学的解析、そのエナメル芽細胞から得られたmRNA, タンパク質を用いたトランスクリプトーム、プロテオーム解析を行い、成熟期エナメル芽細胞のRA-SAシフトとエネルギー代謝状態との関係を分子レベルで明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は通常のマウス組織学的解析、培養細胞を用いた遺伝子解析等を行い、当初予定していた使用額よりも実際の使用額が下回った。次年度は、これらの実験に加え、オミックス解析を数回行う予定であり、次年度使用額と翌年度分とを合わせた額を使用予定である。
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