研究実績の概要 |
エナメル質石灰化を担う成熟期エナメル芽細胞は、波上縁構造をもつ細胞集団(RA)と持たない細胞集団(SA)が周期的に交互に出現する。しかしこのRAとSAの周期的出現 (RA-SA サイクル)がどのよう制御されているのかはほとんど理解されていない。本研究では、成熟期エナメル芽細胞RAとS Aの周期的出現とエネルギー代謝の関係を解明するとともに、この破綻による成熟期エナメル芽細胞への影響とエナメル質形成不全との関連を明らかにすることを目的とした。今年度は昨年度に引き続き、成熟期エナメル芽細胞を低酸素環境で培養したときの影響を解析した。培養成熟期エナメル芽細胞を低酸素(5%)で24h培養すると解糖系マーカーの発現上昇がmRNA、タンパクレベルで見られる一方、酸化的リン酸化マーカーの発現, ATP産生が減少した。またミトコンドリアの膜電位が減少するとともに、球形であった形態がチューブ状に変化した。このことは低酸素によってミトコンドリアの機能(酸化的リン酸化)が低下することを示していた。培養成熟期エナメル芽細胞カルシウム輸送アッセイを行ったところ、低酸素(SAに誘導)は成熟期エナメル芽細胞のカルシウム輸送能を低下させた。また低酸素培養は、カルシウム輸送にかかわるイオンチャネル、トランスポーター、細胞バリア関連遺伝子の発現を低下させた。これらのことはSAがエナメル質の石灰化への寄与が低いことを指示する結果であった。さらに酸化的リン酸化の阻害薬(UK5099)を投与して薬理学的に培養成熟期エナメル芽細胞を解糖系に誘導すると、解糖系マーカーの発現上昇とともに、石灰化機能が抑制された。以上の結果から、エネルギー代謝状態の変化が成熟期エナメル芽細胞のRA/SAフェノタイプを決定しエナメル質石灰化の制御に強く関与していることが示された。
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