我々は、口蓋粘膜の神経堤由来幹細胞の動態を解明するため、マウスの口蓋創傷治癒モデルを用いて解析を行った。神経堤由来細胞が緑色蛍光タンパク(EGFP)で標識された遺伝子改変マウスの口蓋粘膜の一部を切除し、治癒過程を観察したところ、創傷後2日目からEGFP陽性の神経堤由来幹細胞を含む粘膜新生が認められ、28日目に全体が新生粘膜で覆われた。また新生粘膜の神経堤由来幹細胞では、幹細胞マーカーである(Sca-1、SSEA3)、そしてケラチノサイトマーカーである(CK13、CK14)が認められた。また、これらの細胞をポリエチレンテレフタレート(PET)メンブレン上で3次元培養させたところ、上皮組織様のCK13やCK14に陽性な構造の形成を認めた。以上の結果から、口蓋粘膜の神経堤由来幹細胞はケラチノサイトや骨芽細胞に分化し、硬組織再生の細胞ソースとして有用な可能性が示唆された。我々は、本研究期間全体を通して毛包内だけでなく口蓋粘膜内の神経堤由来幹細胞の動態を解明することができた。また口蓋粘膜内の神経堤由来幹細胞を骨芽細胞分化誘導培地にて培養すると骨芽細胞に分化したことから新たな硬組織再生用の細胞ソースとなる可能性が示唆された。さらに、PETメンブレン上で口蓋粘膜内の神経堤由来幹細胞を3次元培養することで上皮様組織の構築に成功したことから、このPETメンブレンは神経堤由来幹細胞にとって適しており、培養の環境を調整することでこれらのスキャフォールドを用いた硬組織の構築が行える可能性が示唆された。また歯肉線維芽細胞のインプラント表面に対する付着力の定量にも着目し、Triboindenterを用いたNano scratch testを行い、歯肉線維芽細胞による基盤への付着力の測定に成功した。この測定方法は、我々が構築した上皮様組織と歯牙およびインプラントへの付着力の測定に応用していきたい。
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