研究課題/領域番号 |
22K21048
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中村 純基 日本大学, 歯学部, 専修医 (20962088)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 歯根膜細胞 / 骨免疫 |
研究実績の概要 |
本研究は、新たな歯科矯正法の開発を最終目標として、歯周組織代謝および歯の移動を調節する因子を明らかにし、その作用機序を解明することを目的としている。本研究では、この候補因子として、low density lipoprotein receptor-related protein 1 (LRP1)に着目して実験を進めている。令和4年度では、マウスの上・下顎臼歯から歯根膜細胞を採取し、間葉系幹細胞として考えられているleptin receptor(Lepr)の抗体を用いて、磁気細胞分離システムによってLepr陽性細胞とLepr陰性細胞を分離した。Lepr陽性細胞の幹細胞性を検討するため、間葉系幹細胞マーカー(CD29, CD44, CD73, CD105, CD106, CD146など)の発現および多分化能(骨芽細胞分化、脂肪細胞分化)を調べた。Lepr陽性細胞は、Lepr陰性細胞に比べて、ほとんどの間葉系幹細胞マーカーの発現が高く、骨芽細胞分化能と脂肪細胞分化能も高いという結果が得られた。これらの結果は、Lepr陽性細胞が間葉系幹細胞の特徴をもつことを示唆している。また、マウス上顎第1臼歯を抜歯した後、抜歯痕の修復過程を免疫組織化学的評価によって観察すると、抜歯3日目にLRP1陽性細胞が出現し、5日目の幼弱な骨組織周囲にもLRP1陽性細胞が認められた。培養した歯根膜細胞からLepr陽性細胞を分離し、LRP1タンパク発現を調べると、Lepr陰性細胞よりも高いLRP1の発現が認められた。これらの結果から、抜歯窩修復に寄与するLepr陽性細胞は、間葉系幹細胞の特徴を有し、LRP1を発現することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本実験を開始する前から他の実験に携わることで、実験手法や装置の使用方法を身に付けていたため、研究遂行に支障がでるような問題は生じていない。また、予備実験を実施していたため、想定していた結果が得られており、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
Lepr陽性細胞からLRP1遺伝子を欠損させたマウス(cKO)を用いて、以下の実験を行う。 1. PDLSCsのLRP1が歯周組織の形成に関わることを明らかにする。1) LRP1によるタンパク産生への関与:Lepr陽性細胞を単離して、5日間培養したconditioned medium (CM) 中のBMP-2, RANKL, OPG, OPNなどをELISA法によって定量する。2) LRP1による骨代謝調節の検討:マクロファージ様細胞であるRAW264.7細胞および間葉系細胞株C3H10T1/2細胞をCMで培養し、破骨細胞および骨芽細胞への分化を検討する。 2. PDLSCsのLRP1が骨免疫機能を制御することを明らかにする。Lepr陽性細胞とRAW264.7細胞の共存培養:Lepr陽性細胞とRAW264.7細胞をトランスウェルで仕切って共存培養し、RAW264.7細胞の破骨細胞分化を検討し、骨免疫因子の遺伝子発現を検索する。 3. 外部ストレスに対するLRP1の働き:LRP1 cKOマウスに対して歯の移動の実験を行う。これらの経時的変化をマイクロCTおよび組織化学的に評価することで、歯の移動に対するLRP1の役割を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験を遂行するために必要なマウスを搬入する予定であったが、搬入する段階で、本学施設に搬入不可の微生物が陽性であることがわかり、マウスのクリーン化が必要になった。マウスのクリーン化および搬入が4月1日以降であるため、支払いは令和5年度になる。したがって、クリーン化に必要な胚作業、胚からの個体作製、凍結保存、微生物検査、マウスの輸送などにかかる費用が次年度使用額になった。この次年度繰越金は、令和5年度助成金と合わせて、前述したクリーン化に必要になる費用や機能学的解析および形態学的解析の物品費に使用する予定である。
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