研究課題/領域番号 |
22K21050
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
榮 宏太朗 愛知学院大学, 歯学部, 歯学部研究員 (60962818)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | Porphyromonas gingivalis / 歯周病原細菌 / FimA線毛・Mfa1線毛 / プライマー設計 / 相同性解析 / 遺伝子型分類 |
研究実績の概要 |
グラム陰性偏性嫌気性桿菌Porphyromonas gingivalisは歯周病の代表的な原因細菌として知られている。本菌は付着因子としてFimA及びMfa1線毛を持つ。これらの線毛は主要成分であるFimA及びMfa1タンパク質により構成されるが、その他にそれぞれ4つの微量成分FimB~FimE及びMfa2~Mfa5が含まれる。fimAはその遺伝子配列の違いによってgenotypeI~V型に分類されるが、fimA型と病原性との関連性については不明な点が多い。 一方、mfa1のgenotypeについては解析が進んでいなかったが、近年我々は mfa1が53、70A及び70B型に分類されることを明らかにし、微量成分の遺伝子型解析にも着手し、mfa2~mfa5及びfimB~fimEにおいても異なる遺伝子型が存在することも報告した。 本研究では、P. gingivalisの全ての線毛成分の遺伝子型分類を可能とする手法を確立すると共に、開発した方法により歯周炎患者のFimA線毛及びMfa1線毛の遺伝子型分類を試み、臨床症状との関連性を調査することを目的とした。現在までに、既報のプライマー及び新規に設計したプライマーを用いて主要成分fimA及びmfa1のPCRを実施した。新規に設計したプライマーではそれぞれのmfa1型が特異的に増幅されることが確認された。 第64回歯科基礎医学会学術大会にて「Porphyromonas gingivalisのmfa1下流因子の遺伝子型解析」という題で発表を行った。(1)mfa2~mfa4は70と53型の遺伝子型に分られ、それらの遺伝子型はmfa1型と一致した。ただし、70型のサブタイプは認められなかった。(2)一方、mfa5はA~Eの遺伝子型に分類され、mfa5がタンデムに存在する株が認められた。(3)mfa1型は、ragA/ragB遺伝子型と相関する傾向が認められたが、mfa5型との相関は認められなかった。との研究結果を報告し、mfa1型とmfa2~mfa5型、およびragA/ragB型との関連性について発表した。 現在、臨床サンプルを用いた研究をスタートするために倫理委員会申請等の準備をすすめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歯周炎患者のP. gingivalisのFimA線毛及びMfa1線毛の遺伝子型分類のため、fimA(I~V型)及び、mfa1(53,70A,70B)のForwardプライマー及びReverseプライマーを設計し、PCR及び電気泳動を行い線毛遺伝子がそれぞれ増幅されていることを確認した。その際、異なる遺伝子型の線毛成分が増幅されることがないようDNA相同性解析をし、PCR条件に適したプライマーを設計した。また、解析に適した電気泳動用ゲルの製作、マーカーの選択を行った。 また、2022年度徳島大学にて行われた第64回歯科基礎医学会学術大会にて「Porphyromonas gingivalisのmfa1下流因子の遺伝子型解析」という題で発表を行った。(1)mfa2~mfa4は70と53型の2つ遺伝子型に分られ、それらの遺伝子型はmfa1型と一致した。ただし、70型のサブタイプは認められなかった。(2)一方、mfa5は、他の遺伝子型とは独立し、A~Eの5つの遺伝子型に分類され、mfa5がタンデムに存在する株が認められた。(3)mfa1型は、ragA/ragB遺伝子型と相関する傾向が認められたが、mfa5型との相関は認められなかった。以上のことから、Mfa1線毛の遺伝子型と病原性との関連の解析には、mfa1型だけではなく、線毛の微量成分や下流因子の多型との関連性について検討する必要があると考えられるとの研究結果を発表した。 現在、臨床サンプルを用いた研究をスタートするために倫理委員会申請等の準備をすすめている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、臨床サンプルを用いた研究に移行するため、歯周病患者から縁下プラークを採取し線毛遺伝子群の遺伝子型分類を行い、歯周病の重症度(ポケット深さ、出血の有無、PISA、PESA等)との関連を調査する。 具体的には、初診患者について、歯肉縁下プラークサンプルを滅菌ハンドスケーラーで採取し、0.01%ジチオスレイトール含有PBS(pH7.4)1mlに移す。サンプルは直ちに4℃に保存しゲノムを抽出する。得られたゲノムを鋳型として全ての線毛因子の遺伝子型を決定する。最終的には臨床症状と線毛型との関連を統計学的に解析する。 もし研究が順調に進んだ場合は、異なる遺伝子型におけるMfa1線毛機能解析に発展させる。特にMfa1線毛がバイオフィルム形成の調節に関わっていることが報告されていることから、mfa1遺伝子型間でのバイオフィルム形成能を比較する。 令和4年4月より口腔バイオフィルム感染症において口腔細菌定量検査が保険適応となった。口腔細菌の定量解析の重要性が高まっており、特に歯周病検査では、診断や予後の審査において細菌検査はますます重要になると思われる。 そのような中で、既報の研究は、P. gingivalisの病原性を評価するにはfimA型分類のみの解析では不十分であることを示している。今後、今まで見逃されてきたfimB~E及びmfa2~mfa5を含むクラスター全体に範囲を拡げ、遺伝子型分類を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究はおおむね順調に進んでいるが、旅費の支出がなかった点、および消耗品量が少なかったため。 本研究は、愛知学院大学歯学部微生物学講座研究室にて行う。主な研究の材料はPorphyromonas gingivalisとその変異株である。研究遂行に必要な培養施設、電子顕微鏡、分子生物学な解析装置などは、実施場所に概ねそろっている。 前年度の経費の主要な用途は消耗品であり、培地、抗菌薬や培養用チューブ、ピペットなどのプラスチック器具、ガラス器具、抗体、試薬類の購入であった。また、設備備品として、ゲノムデータベースを基にしたプライマー設計のためのPCを計上した。一方、臨床サンプルを用いた研究が予想より次年度に集中することが分かったため、消耗品の経費が次年度に多く掛かることが予想される。 また、次年度は諸学会にて研究成果を公表するために必要な出張経費および論文発表の際の諸経費を計上している。
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