研究実績の概要 |
歯周病は口腔内の代表的な感染症であり、プラーク中の細菌により生じる複合菌感染症である。歯周病はプラーク中の細菌が病原性の高いものへと変化(ディスバイオーシス)することで炎症性の歯周組織破壊が生じる。その病態の理解と予防・治療法を検討する上で細菌叢のdysbiosisの特徴やそれらが生じる原因を知ることは重要である。 そこで本研究では、歯周病の治療前後の時点において歯周ポケット内のプラーク試料からDNAおよびRNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いてメタトランスクリプトーム解析を実施し、細菌叢組成および網羅的な活動性を評価した。同時に臨床症状などのデータと併せて解析を行うことで、疾患の発症・進行・再発に関わる細菌学的指標(細菌叢、細菌種および発現遺伝子の特徴)の同定を試みた。 細菌組成の多様性は歯周炎部位の治療前と治療後で有意な差が認められ、比較対象として同じく試料採得をした健常や歯肉炎部位において有意差は認められなかった。しかし、治療後に有意に存在割合が変化した細菌種が健常、歯肉炎部位を含む全ての部位で認められ、健常、歯肉炎、歯周炎部位においてそれぞれ33、35、51菌種検出された。特に歯周炎ではStreptococcus sp, Treponema denticola, Tannerella forsythiaの減少を認めた。またTannerella forsythia は治療前の歯周組織状態に関わらず治療後で減少していた。 歯肉炎や歯周炎部位で治療後に変動を認めた細菌種は歯周組織の治癒や健常状態の維持に寄与している可能性がある。驚くべきことに健常部位においても主要な歯周病原細菌とされているTannerella forsythiaの検出頻度の減少が認められたことから、治療前の健常部位においても細菌叢のディスバイオーシスが生じており、歯周疾患リスクが高い状態にあると示唆された。また治療によって歯肉炎や歯周炎部位のみならず、健常部位も含めた一口腔単位で細菌叢の変動が起きている事を確認した。
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