本研究は認知症とともに生きる人に対する援助行動に着目し、一般住民による援助行動促進のためのプログラム理論を構築することを目的として2つの研究を行った。 (A)暗黙的態度の測定に関する予備的実験。暗黙的な態度とは意識的な制御の外で発生する態度であり、明示的態度とは異なる経路で援助行動の発現に影響を及ぼす可能性がある。また、測定においては社会的望ましさバイアスの影響を受けにくいという特徴がある。今回は一般市民を対象として、 Implicit Relational Assessment Procedure (IRAP)という手法で暗黙的態度の測定を行った。測定自体の成功率が低いという課題が残ったものの、VRを用いた認知症啓発プログラムは講義のみのプログラムよりも暗黙的態度を改善させる傾向にあることが確かめられた。今後、測定方法の改善を行うとともに、暗黙的態度が援助行動の発現に及ぼす影響を長期的に追跡することで明らかにする必要がある。 (B)認知症診断後の周囲のサポートに関する検討。認知症の早期診断が推奨される一方で、診断後のサポートの欠落が本人の生活の質を低下させる懸念が呈されている。今回は認知症と診断された方の家族介護者を対象とした横断調査の二次データ分析を行い、診断後に得られたサポートの種類と本人の社会参加の減少との関連を検討した。その結果、診断後に友人からのサポートを得ていた者は社会参加がより減少しやすいこと、逆に、もの忘れ外来や認知症疾患医療センターからサポートを得ていた者は社会参加が減少しにくいことが明らかになった。 (C)認知症教育プログラム(eラーニング)の開発・評価。本プログラムはドラマ、VR、シミュレーション、当事者の映像、講義を組み合わせたものであり、組み合わせ間の効果の比較を行った。今後、結果の分析を行い、最適な組み合わせを明らかにする。
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