法医学情報を用いた孤独死事例の詳細な分析から、孤独死のリスク要因を明らかにし、その予防対策へつなげることを目的とした。自宅死亡事例を抽出し、各事例について詳細な調査を行った。死亡から発見されるまでの時間 (PMI-f) を算出し、3日未満群と3日以上群に分類し、発見が遅れた要因について検討した。また、独居者で発見の早かった事例、同居者がいるにもかかわらず発見の遅れた事例の特徴について記述した。2022年12月から2023年の89例のうち、血液などの試料が採取可能であった事例について、生化学検査などを実施し、生前の健康状態の把握が可能か検討した。 PMI-fが3日以上の群では、男性、独居、無職、介護認定なしの割合が3日未満の群と比較して有意に高かった。発見が遅れた群では郵便物の堆積などがきっかけで近隣住人が発見する場合も多く、近隣住人などがより早く異変に気付くことで死後発見までにかかる時間の短縮につながる可能性が示唆された。独居で死後比較的早く発見されるのは定期的な介護や親族の訪問があること、65歳未満の独居者では有職者が多く、同僚が異変に気付きやすいという要因があった。 生化学検査を実施した26例において総蛋白、CRP、HbA1cなどの異常値が見られた事例の中には体調不良、感染症の症状、糖尿病の既往歴が確認された事例もあったが、把握のない事例も半数存在していた。今回検討した検査は死後も比較的安定している項目であり、異常値であった検査項目に関して、既往歴として把握していない疾患や生前の体調不良があった可能性も示唆された。しかし、死後変化の影響を受けていた可能性もあり、解釈が困難であった。腫瘍マーカーについて、高値であった事例については解剖所見、組織所見と合わせてさらに検討する必要があると考えられた。
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