本研究は,途上国辺縁地域住民における環境化学物質への曝露と酸化ストレスとの関連を検討することを目的とした.また,その関連における腸内細菌叢の役割についても着目した. ラオス北部住民の山岳地域の住民を対象に調査を実施し,質問票を用いた属性・生活習慣の聞き取り,身体計測,生体試料の採取を行った.微量元素およびネオニコチノイド類の尿中濃度を測定し,曝露レベルの評価を実施した.DNAの酸化損傷指標(8-OHdG)と脂質の酸化損傷指標(8-isoprostane)も測定し,生体内の酸化ストレスレベルを定量的に評価した.併行する別プロジェクトで解析済の腸内細菌叢のデータも用いて,化学物質曝露・腸内細菌叢・酸化ストレスの関連を検討するために統計解析を実施した. 尿中濃度を用いた化学物質曝露評価の結果,ネオニコチノイド類についてはほとんどの参加者で不検出であったため,酸化ストレスとの関連解析は微量元素に着目して実施した. 微量元素への曝露と酸化ストレスとの関連を解析した結果,ヒ素やカドミウムへの曝露は生体内の脂質過酸化を促進している可能性が示唆された.また,ヒ素やカドミウムといった有害微量元素と必須微量元素であるセレンとの複合的な曝露に着目した結果,セレンの摂取が高いとヒ素やカドミウムによる酸化ストレスの増大が抑制される可能性が示唆された. 腸内細菌叢のデータを用いた解析は現在進めているが,腸内細菌叢の多様性高いと有害微量元素への曝露による酸化ストレスの増大が抑制されている可能性を示唆する結果が得られている.
|