研究実績の概要 |
高齢社会におけるフレイル患者の増加と根本的な治療法の欠如は、社会に深刻な影響を及ぼしている。フレイルの発症メカニズムを明らかにし、その予防策を構築することは、緊急を要する課題となっている。視覚からの情報はフレイル発症に大きな影響を与えるという仮説に基づいて、我々は以下のように研究を進めた。 1. 白内障手術を受けた75歳以上の患者88人を対象に実施された。術前および術後3ヶ月の時点で視力検査をして、同時にミニメンタルステート検査(MMSE)を用いて認知機能を評価した。ベースライン時のMMSEスコアに基づき、対象患者を認知症群(MMSEスコア23以下:39人)と軽度認知障害群(同スコア23超27以下:49人)に分けて解析した。その結果、対象患者全体では、MMSEスコアは白内障手術前と比べて術後の方が有意に高かった。また認知機能障害の重症度別にみると、認知症群では白内障手術前後のMMSEスコアに統計学的な有意差はなかったのに対し、軽度認知障害群ではMMSEスコアは術後の方が有意に高かった。本研究は、白内障手術によって、軽度認知障害患者の認知機能は有意に改善する可能性を示した。 2. 二重感覚障害(視覚と聴覚の両方に障害がある状態)と認知症発症との関連について、10のコホート研究(合計223,929人の参加者)を対象に系統的レビューおよびメタ分析を行った。その結果、二重感覚障害は感覚障害なしと比較し、認知症発症リスクを増加させた。また視覚障害や聴覚障害も独立して認知症発症のリスクを高めた。本研究は、二重感覚障害および視覚障害・聴覚障害は認知症発症のリスクを高める可能性を示した。 上記の研究の成果から、視機能はフレイル(認知症/認知機能障害)と関連する可能性があることを示唆した。
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