研究課題/領域番号 |
22K21163
|
研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
阿山 香子 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学研究所 放射線規制科学研究部, 技術員 (30953608)
|
研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
キーワード | リンパ節 / ウラン / 内部被ばく / 放射光 / マイクロビーム / 元素イメージング |
研究実績の概要 |
内部被ばくのリスク低減のためには、体内に取り込まれた放射性核種を沈着・残存部位から効率的に排出させる必要がある。組織内の局在量の把握や化学形の特定が重要となる。リンパ節は線量評価における重要器官と位置づけられているが、動物実験に基づいた定量データは乏しく、体内除染研究は立ち後れている。本研究では、量子ビーム分析を駆使し、長寿命内部被ばく核種をばく露した動物のリンパ節における核種の分布動態、局在量ならびに化学形の解明を目指す。 具体的には、ラットにウランを投与して、リンパ節へのウラン移行量をICP-MSにより測定し、経時的な移行動態を把握する。次いでSR-XRF(シンクロトロン放射光蛍光X線分析)やマイクロPIXE(荷電粒子励起X線)分析によるマイクロビーム元素イメージングから、リンパ組織内の元素分布様態やウラン局在・沈着を調べる。ウラン局在・沈着部位についてμXAFS(マイクロビームを用いたX線吸収端微細構造)法による化学形解析を行う。 令和4年度は、リンパ組織のサンプリング手法、ICP-MSによる微量元素濃度測定、マイクロビーム元素イメージング用測定試料作製手法について検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、リンパ節へのウラン移行動態と放射光やプロトンなどのマイクロビームを用いた元素分析によるリンパ組織中ウラン分布解析に取り組む。初年度はリンパ節組織のサンプリング手法や分析手法の条件設定に重きをおいた。 1)リンパ組織のサンプリング:当初は分析対象リンパ節組織として顎下、腋窩、膝裏リンパ節を想定していたが、サンプリングの正確性や作業時間、組織重量等を考慮し、顎下および腸間膜リンパを分析試料とした。ICP-MSのための分析前処理や希釈条件を設定した。ラットへのウラン皮下投与モデルの予備実験では、リンパ節ウラン濃度の相対標準偏差は20%程度であり、リンパ組織のサンプリングの安定性やICP-MS測定条件設定は概ね良好であった。 2)マイクロビーム元素分析用測定試料の作製:リンパ節の凍結薄切切片を作製し、ポリプロピレン膜に付着させ、マイクロビーム元素分析用測定試料を作製した。断面方向の検討を行い、適時組織染色を施して微細構造の保持を確認し、分析用測定試料の作製手法を確立した。SR-XRFやマイクロPIXEを試行的に行い、分析条件の設定を行った。また薄切分析標準を用いて局所定量についても試行した。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度はこれまでに確立した組織試料のサンプリング手法や設定した測定条件をふまえ、ウランのリンパ節組織移行動態データの構築を行う。またSR-XRFおよびマイクロPIXEにて元素分布解析を進める。 1)リンパ組織へのウラン移行動態:ラットにウランを経口あるいは皮下投与し、リンパ節へのウラン移行をばく露後1時間から72時間まで経時的調べる。ばく露経路によるリンパ組織の移行動態特性を把握する。 2)リンパ組織内元素分布:リンパ節凍結切片試料を作製し、1ミクロン程度の微小ビームを用いてSR-XRFおよびマイクロPIXEにより元素分布解析を行う。測定試料の隣接切片を組織染色してリンパ節の微細構造を把握し、元素イメージングと対応させる。元素局在・沈着部の部位を特定する。またウラン局在・沈着部の共存元素組成を明らかにする。 3)化学形解析:ウラン局在・沈着部に正確にマイクロビームを照射し、放射光を利用したXAFS分析によりウラン化学形変化を調べる。 これらの結果からウランのリンパ組織への移行・残存性の評価を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
課題採択時期の関係で、当初予定していた動物実験予備検討の開始時期が遅れ、本実験の設定までに至らなかったため。 令和5年度に速やかに本実験を開始し、動物購入や解析実験試薬・器具等の購入に使用する計画である。
|