妊娠・分娩を経験した女性が尿失禁を有症していることは多くの研究で報告されている。その解剖学的要因に、胎児発育に伴う子宮の増大や分娩進行に伴う児頭下降による膀胱への圧迫がある。しかし、児頭下降による膀胱への圧迫状態について、これまで視覚的診断方法である画像から膀胱の形状変化を解明した研究はない。医学書や助産学の教科書の妊娠末期の子宮内の胎児と膀胱を示す図は書物によって大きく異なっている。本研究では、経会陰超音波断層法検査を用いて画像診断し、膀胱の形状変化と尿失禁症状との関連を検証することを目的としている。 妊娠36週以降の単胎妊婦20名を対象とし、妊婦健診時・産後1カ月健診時に経会陰超音波断層法検査を行った。妊娠末期の女性の膀胱は、児頭先進部の骨盤内下降に伴い、恥骨結合下縁を越えて下方に伸展するという知見を国内外で初めて解明し、“膀胱の下方伸展”と用語の定義を行った。研究技法として使用した経会陰超音波断層法検査は、2018 年の国際産婦人科超音波学会(ISUOG)のガイドラインで注目されている。この超音波検査技法において、膀胱下方伸展の評価に“膀胱下降度”を設定し、“Angle of progression(AoP:児頭進入角度)を参考値とし、恥骨最大径を結んだ直線と恥骨結合下縁を起点として膀胱下端までの直線がなす角度の測定を行った。なお、本研究課題は、滋賀医科大学倫理審査委員会の承認を得て実施している(整理番号R2021-151)。 妊娠末期に腹圧性尿失禁自覚症状を有する女性は有症しない女性と比較し、膀胱下降度が有意に大きいこと、膀胱下降度測定は、尿失禁症状の出現リスクを推察する客観的指標となる可能性を明らかにした。また、産後1カ月時では、妊娠末期と比較し膀胱下降度が大きいことが明らかとなった。
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