研究課題/領域番号 |
22K21216
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
寶川 美月 順天堂大学, 大学院スポーツ健康科学研究科, 博士研究員 (70967033)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | ヘプシジン / 遺伝子多型 / 鉄状態 / 鉄吸収 |
研究実績の概要 |
本研究は、遺伝学的アプローチより鉄吸収に対する遺伝要因が体内の鉄状態・持久系パフォーマンスへ及ぼす影響を検討するものである。 本年度は、本研究課題の目的の第一の目的である「ヘプシジン産生や機能に関与する包括的な遺伝型スコアと腸管での鉄吸収との関連」について検証した。初めに、ヘプシジン産生や機能に関与する包括的な遺伝型スコアを作成し、スコアの妥当性を検討した。スコアの作成には、世界中のGWASデータを集めたデーターベース(GWAS Catalog)を用いた。遺伝子多型は鉄状態の表現型である、”血清鉄・トランスフェリン・トランスフェリン飽和度・フェリチン”の4項目(Benyaminら, 2014)に関連するものを対象とした。そして、作成した包括的なスコアと血清ヘプシジン濃度との関連解析を行うことによりスコアの妥当性を検討した。その結果、ヘプシジン濃度が高いとされる遺伝型スコアでは実測値は高く、低いとされる遺伝型スコアでは実測値も低いという有意な関連が認められた。 次に、包括的な遺伝型スコアと鉄吸収との関連検証を行うために、鉄吸収試験の予備検討を実施した。これまでに包括的な遺伝型スコアの違いにより鉄吸収量の個人差を説明できる可能性を見出しているが、現在時点では人数が少ない。そのため、今後サンプルサイズを増やし、ヘプシジン産生や機能に関与する包括的な遺伝型スコアが腸管での鉄吸収率を説明できるか否かについて検討する。また、持久系アスリートにおいて、作成したスコアと鉄状態との関連検討も行っており、スコアによって血清鉄やフェチリン(貯蔵鉄)を説明できるとの結果を得ている。次年度も引き続き、鉄吸収試験を行い、包括的な遺伝型スコアと腸管での鉄吸収との関連を検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、「ヘプシジン産生や機能に関与する包括的な遺伝型スコアと腸管での鉄吸収との関連」を明らかにするために、ヘプシジン産生や機能に関与する包括的な遺伝型スコアを作成した。作成方法は、世界中のGWASデータを集めたデーターベース(GWAS Catalog)を用いて、鉄状態の表現型である、”血清鉄・トランスフェリン・トランスフェリン飽和度・フェリチン”の4項目に関連する遺伝子多型をP >= 5 × 10-8レベルで115個抽出した。抽出した115多型より、個々の遺伝子多型の貢献度を考慮して点数化するために必要な効果量やrisk alleleが不明なものは除外した。加えて、重複している多型および日本人において遺伝子多型間でr2 > 0.3で遺伝的連鎖がある多型群は鉄状態との関連が低いほうを除外した。これらの行程より残された73多型の中からヘプシジンに関与する遺伝子に着目し、5つの遺伝子多型に基づいた包括的な遺伝型スコアを作成した。実際に、ヘプシジン濃度が高いとされる遺伝型では実測値は高く、低いとされる遺伝型でも実測値は低いという有意な関連が認められており、作成したスコアの妥当性が証明された。さらに、持久系アスリートを対象に鉄状態との間にも有意な関連が見られており、これらの成果を学術論文としてまとめていく予定である。 次に、鉄吸収試験を行うための予備検討を行った。早朝に絶食状態で鉄100mgを摂取し、血清鉄の変動を鉄摂取前から摂取後1時間ごとに6時間後まで観察した。その結果、スコアが低い人に比べ高い人の方が鉄吸収量は多い傾向にあることを確認している。 以上のことから、包括的な遺伝型スコアと鉄吸収との関連については検討中であるため多少の遅れはあるが、持久系アスリートにおいてスコアと鉄状態との関連を見出せたことなど大きな進展はあったため、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度までに行ってきた鉄吸収試験を継続して実施し、ヘプシジン産生や機能に関与する包括的な遺伝型スコアと腸管での鉄吸収との関連解析を行うとともに、持久系アスリートを対象にスコアとパフォーマンスとの関連についても明らかにする。鉄吸収試験は、本年度実施した予備検討の成果を活かし、より正確性および妥当性の高いプロトコルを使用し検討を行う予定である。なお、持久系アスリートのパフォーマンスについては、競技レベルおよび陸上競技ごとの成績をスコア化したIAAFスコアを用いて検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学内で人を対象とした実験の実施に制限がかかっていたことで、鉄吸収試験および血液分析に必要な消耗品の購入に遅れが生じたためである。そのため、計画の変更を表すものではなく、次年度計画的に利用する予定である。
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