研究実績の概要 |
本研究の目的は、遺伝学的アプローチより鉄吸収に対する遺伝要因が体内の鉄状態・持久系パフォーマンスへ及ぼす影響を明らかにすることであった。本年度は、「ヘプシジン産生や機能に関与する包括的な遺伝型スコアが鉄吸収能および競技パフォーマンスの個人差に関連しているのか」という課題について検証した。初めに、昨年度までに作成したヘプシジンの産生や機能に関与する包括的な遺伝型スコアを用いて、遺伝型スコアと鉄吸収能との関連を、一般成人9名を対象に検討した。先行研究および予備実験の結果に基づいて、鉄摂取2時間後の血清鉄の値から安静時の血清鉄の値を引いたものを鉄吸収能として評価した。その結果、遺伝型スコアと安静時の血清鉄濃度との間に有意な関連は認められなかった(遺伝型スコア4: 105.5 μg/dL, 5: 126.5 μg/dL, 6: 64.0 μg/dL)。一方で、有意ではなかったものの遺伝型スコアが高くなるほど鉄吸収能は低値を示した(遺伝型スコア4: Δ119.8 μg/dL, 5: Δ97.3 μg/dL, 6:Δ73.0 μg/dL)。ヘプシジン制御に関わる遺伝型スコアの違いと鉄吸収能との有意な関連は認められなかったが、サンプルサイズが小さかったことからも、今後、各遺伝型スコアの対象者を増やして検討を加える必要がある。次に、日本人長距離選手488名を対象に、遺伝型スコアと競技力との関連を検討したところ、遺伝型スコアと競技力との有意な関連は認められなかった。しかしながら、今回は「地域大会レベル」、「全国大会レベル」、「国際レベル」の3種類のカテゴリーによって競技力を分類していたため、今後は、最大酸素摂取量や個人のタイムをスコア化したIAAFスコアなど個人の差を検出できる評価項目との関連について検討を行っていく予定である。
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