本研究は,男子競泳選手を対象に,一流競泳選手と一般競泳選手を比較し,大きな推進力の発揮に必要な上胴のロール動作 (体軸の長軸周りの回転) と下肢動作タイミングを明らかにすることを目的とした. 実験参加者は,一流男性競泳選手6名と (上位群),地方大会レベルの一般男性競泳選手7名の2つのグループ (下位群) であった.参加者は,まず実験用水槽での試技の流速設定のため,通常の屋内プールで25 mクロールを全力で泳いだ.その際の15-25 m 間のタイムから試技流速を決定した.その後,実験用水槽で,先に算出した流速で10秒間クロールで泳いだ.試技では,手部表面の圧力分布分析と3次元動作分析を実施した. 手部で発揮された推進力は,全水中局面およびPush局面において上位群の方が有意に高い値を示した.合成手部スピードは,全水中局面のおよびPush局面において上位群で有意に高く,後方への手部速度はPush局面で有意に高かった.ロール角度の最大値は,群間で差がなかったが,上位群で肩と膝の最大ロール角速度が有意に高かった.肩の最大ロール角速度はPush局面で確認された. 膝のロール角速度のピーク値は手の出水までに4回確認され,すべてのピークのタイミングは群間に有意な差が認められた.上位群では,第1ピーク後に腰および肩がロールバックし,第3ピーク後に肩の最大ロール角速度が確認された.下位群では,第1ピーク後に腰のみがロールバックし,第2ピーク後に肩がロールバックし,第3ピーク後に肩の最大ロール角速度が確認されたが,第3ピーク後から肩の最大ロール角速度が現れるまでタイムラグがあった. 以上のことから,一流競泳選手は,大きな推進力を発揮するために,下肢(膝)の最大ロール角速度と肩のロール動作(ロールバックおよび最大ロール角速度)が連動するようにタイミングを図っていたと考えられる.
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