2023年度においては、心拍変動における日々の状態を考慮した基準値の設定方法の検討を進めた(研究1)。健常成人男女を対象に心拍変動の測定を就寝時(4日間×3週)、安静時(仰臥位、座位、立位:週1回×3週)、運動時(週1回×3週)に評価し、個人内および個人間における心拍変動の一致性を検討した。その結果、心拍変動の大きさは個人内においては高い一致性が認められ、かつ日々の変動が認められた。一方で、個人間での一致性は認められなかった。この結果から、ストレスに対する心拍変動の変化を評価するためには、個別に基準値を設け、その基準値をもとに日々の状態を評価する必要性が確認できた。そこで、日々の心拍変動値の平均値を個人の基準値とし、その基準値からの差分を日々の変化として評価することで、ストレスに対する反応を検出できるのではないかと考え、研究2の検討を進めた。 研究2においてはストレスに対する心拍変動の反応を個別に検出できるかを検討した。日常生活における身体活動量、睡眠の状態、心理状態、ストレスホルモン(コルチゾール)の日々の変化と心拍変動の日々の変化(平均値からの変化)との関係を検討した結果、就寝時、安静時(仰臥位、立位)、運動時に心拍変動を評価した場合において、日々の変化の大きさと身体活動量、睡眠状態、心理状態の日々の変化の大きさとのあいだにそれぞれ関連性が認められた。 本研究は心身のストレス度合いを心拍変動から個別に評価する方法を確立することであった。個別に数日間測定した心拍変動値を平均し(基準値)、基準値からの差分を個別に評価することで、日常生活における身体活動量、睡眠の状態、心理状態の日々の変化を検出できる可能性を示すことができた。本研究の成果は心拍変動評価を用いて日常生活における心身のストレス状態を個別に把握する方法の一つとしての提案につながると考えている。
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