これまでに、運動が認知症やうつ症状を改善することが明らかにされているが、この運動の効果の分子機構は明らかにされていない。本研究は、身体運動時の頭部の動きにより制御される脳脊髄液と脳内間質液の流動に着目し、運動が認知症やうつ症状を抑制する分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。 最終年度は、行動実験にて受動的身体上下動の有効性を認めた身体拘束ストレスモデルマウスにおいて、受動的身体上下動による介入の作用点となる脳領域と細胞種の同定に取り組んだ。海馬、内側前頭前皮質、扁桃体において、炎症と神経新生に関連する分子に着目した解析を行ったが、受動的身体上下動による効果の同定には至らなかった。加えて、受動的身体上下動の効果の検出に適した介入期間の探索にも取り組んだ。粉餌飼育モデルマウスを用いて、受動的身体上下動の効果を、経時的にくり返し、行動学的に評価したところ、初回の評価時点においてのみ、受動的身体上下動による認知機能障害の軽減効果を認めた。このため、粉餌飼育モデルマウスでは、行動学的解析を繰り返すことにより受動的身体上下動による効果を検出できなくなる可能性、あるいは、短い介入期間の方が受動的身体上下動による効果を検出しやすい可能性があることが示唆された。また、受動的身体上下動による認知機能維持効果が認められた短い期間の粉餌飼育後に摘出した脳の海馬歯状回では、神経前駆細胞と新生ニューロンが減少していることを確認した。
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