本年は、昨年度作製した回路の測定をメインに行った。作製したシャントキャパシターを搭載した磁束量子ビットと共振器の超強結合回路に関して、スペクトル測定、仮想光子検出のための測定を行った。スペクトル測定では、理論的に予測されていた量子ビットの2準位目以降が共振器と強く結合していることがフィッティングから明らかになった。昨年度には、系を共振器に接続しているフィードラインから励起していたが、今年度は量子ビットを直接励起するラインを用意した。これにより量子ビットを励起しながら共振器の応答を見ることで詳細なエネルギー構造を得ることができた。概ね理論モデルに一致するスペクトルであったが、すべてを再現することは現在できておらず、今後も調査対象である。
この系を使って仮想光子を検出する実験の第一段階として、励起した量子ビットが仮想的に持っている共振器光子を放出するという過程を利用して、入力した量子ビットの周波数が、共振器の周波数として出てくるというダウンコンバートが行えることを予想し、実験を進めた。しかしながら、いくつかの手法を試したものの未だ共振器光子を検出するには至っていない。この原因が理論的なものであるのか、実験的なシグナルがノイズに埋もれているだけなのか、今後も調査を続ける必要がある。
上記が概要であるが、成果をまとめると、マルチレベルの人工原子(量子ビット)と共振器の超強結合を初めて観測することに成功した。また理論的にもこの系を用いた仮想光子検出の可能性を示した。この結果を2023年11月30日に36th International Symposium on Superconductivityという国際学会で「Virtual to real photon conversion using C-shunt flux qubit」という内容で口頭発表し、ベストプレゼンテーション賞を得た。
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