令和4年度の研究では,持続的注意課題中にEEGを用いて脳活動を測定し,同時に瞳孔、心拍、皮膚電位活動などの自律神経系関連の生体情報を取得した。さらに,データ駆動的手法を適用することで、安定した脳状態を推定を行った。しかしながら,推定された脳状態は数秒ごとに変化するものであり、視覚化に適した状態の推定には至らなかった。そこで、令和5年度の研究では、単一の周波数帯域のpowerに基づき、様々な生体情報との関連を調査する研究と、複数の周波数帯域のpowerに基づいて脳状態を推定する研究を実施した。これらの研究により、実環境での視覚化に適した脳状態の推定可能性を検証した。
その結果、先行研究において0.07Hz程度の遅い揺らぎを示すことが知られているα波のpowerは、呼吸強度、瞳孔径、瞬きの頻度などと正の相関を示すことが明らかになった。また、主観的な報告に基づくと、眠気との正の相関や注意力や覚醒度との負の相関が示された。 さらに、脳状態推定技術の日常生活への応用可能性を検証するため、日常生活での実用性が高い6ch簡易EEGを用いて、様々な周波数帯域のpowerおよび生体情報に基づき、データ駆動的に脳状態を推定する研究も実施した。本研究では、より日常生活に近い状況を想定し、グループディスカッション中の生体情報に基づく脳状態推定を行った。その結果、周波数帯域ごとのpowerで特徴付けられる4つの脳状態を推定することが出来た。 これらの研究成果により、日常生活で利用可能な簡易脳波計で計測された脳活動や、ウェアラブルデバイスで計測可能な心拍、瞳孔径の利用により、人間の集中状態を客観的に推定することが可能であることを示すことが出来た。
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