パーキンソン病(PD)では神経変性の進行に伴い錯視・幻視を呈することが特徴だが、あたかも身体周囲に何かが存在し、触れるかのような錯感覚(Presence Hallucination)をしばしば伴う。この実体感を形成する複合感覚に視覚と体性感覚が影響すると仮説を立て、MRIを用いた脳活動を検討した。 錯視および錯感覚を呈するPD病患者 8人、および、8名中6名で下肢を中心に異常感覚ないし疼痛を認め、うち2名はモノフィラメントテストでの表在感覚閾値の低下を認めた。 また、既存のコホート研究を用いて66名の幻覚を伴うPD病患者(PDwHL)と、66人の疾患背景をマッチさせた幻覚を伴わないPD患者(PDnonHL)の臨床データを収集した。幻覚を伴う66名全てで何らかの錯視・幻視を認め、うち20名で非視覚的な錯覚・幻覚を伴った。異常感覚ないし疼痛を認めたのはPDwHLでは28名、PDnonHLでは13名であり、錯感覚形成と表在覚異常との関連が疑われた。MRI解析では、先行研究(Kajiyama et.al. 2021)で認めた前頭-側頭ネットワークを中心に解析を行ったところ、PDnonHLと比較して、PDwHLで優位な機能的脳結合の低下を認め、特に非視覚的な錯覚・幻覚を伴う20名でより顕著な低下を認めた。この結果から、幻視・錯視と錯感覚に共通する基盤の可能性が示唆された。本研究の成果は、PDにおける体性感覚と視覚の病的統合異常の新たな視点を提供し、幻覚を誘発あるいは緩和させる手法の開発に寄与すると考える。
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