研究実績の概要 |
本研究は、質量分析法を基礎とする環境中の未知汚染物質の構造推定の迅速化を目的とするものであり、この達成のために、ケモインフォマティクス的手法による保持時間の予測方法、および量子化学計算による開裂反応(フラグメンテーション)の予測方法の開発を試みるものである。 昨年度に引き続き、各種分子に対する記述子の一斉検索システムを構築した。構築にはPython言語を使用し、同言語にて利用可能なライブラリであるRDkit, Pubchempy(PCP)を使用した。昨年度の検討では、任意の分子式をPubchem上で検索した後、得られる構造異性体の集団の各分子に対してcanonical SMILESを一斉に取得して、各分子中のカルボキシ基、フェニル基、三級アルコール、三級アミンの官能基数をカウント可能であった。しかし、計数可能な官能基が4種のみと限定的であった。今年度の検討では、計数対象の官能基の種類を大幅に拡張し、これら4種に加えて炭素-炭素二重/三重結合、ヒドロキシ基(一, 二, 三級アルコール)、ケトン、エステル、アミノ基(一, 二, 三級アミン)、ニトロ基、イミン、ニトリル基、メルカプト基、スルホニル基、スルホ基が検索可能となった。多段階精密質量分析では、未知物質が有する官能基情報を取得可能な場合がある。したがって、同一の分子式を有する構造異性体の集団の中から特定の官能基を有する分子のみを抽出する初次的な構造推定において、本法は有効である。 また、これらの官能基情報に加え、XLogP(個々の原子の寄与率から推算される水/オクタノール分配係数)、トポロジカル極性表面積、水素結合アクセプター/ドナー数などの情報が取得可能となった。本年度の検討において、取得可能な記述子の種類が拡張されたため、保持時間予測モデルの開発加速が期待される。
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