研究実績の概要 |
本研究は,極低温の星間塵表面における有機硫黄分子の化学反応を実験的に調べることを目的としている。本年は,硫黄を含む化合物の中で唯一固体として検出されている星間分子:硫化カルボニル(OCS)に着目し,星間塵表面でのH原子との反応性を調べた。真空中で10ケルビンに冷却したアモルファスH2O氷上に固体OCSを作製し,水素原子と反応させたところ,生成物としてCO, H2S, H2CO, およびCH3OHが検出された。量子化学計算により,氷とOCS分子の結合エネルギーや各種表面反応の活性化エネルギーを求めたところ,これらを生成する過程として,OCS + H → OCSHが始めに生じ,その後,さらに水素原子付加反応 OCSH + H → H2S + COが生じる連続反応であることがわかった。H2CO, CH3OHは左記の反応で生成したCOにH原子がさらに逐次付加して生成したものである。また,最近の天文観測で星間空間に見つかっているHC(O)SHが,氷星間塵表面でHCOとSHラジカルとの反応により生成しうることが初めて示唆された。この反応経路はこれまで知られていなかった新たな生成機構を示すものである。また,本研究により,比較的な簡単なOCS分子から,外部からのエネルギーを必要としないH原子付加反応により,多様な分子が生成されることが分かった。また,S含有物として,もっとも存在度が高いと思われるH2Sが最終生成物として残ることが明らかになった。
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