研究課題/領域番号 |
21F21380
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大場 雄介 北海道大学, 医学研究院, 教授 (30333503)
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研究分担者 |
PANINA YULIA 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2021-11-18 – 2024-03-31
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キーワード | ACE2 / 線毛 / SARS-CoV-2 / シグナル伝達 / YAP / 細胞骨格 |
研究実績の概要 |
本研究は、コロナウイルスの細胞侵入におけるACE2の役割と病気の進行との関係に焦点を当てている。現時点では、肺と線維芽細胞の内因性ACE2の局在を特定し、それが線毛に局在していないことを発見した。ACE2を過剰発現した肺上皮細胞の細胞モデルを確立し、元のACE2を発現しない細胞株と比較して解析した。その結果、形態に違いがあることを見出した。そこで、細胞骨格の変化を解析しました結果、アクチン細胞骨格が大幅に変化していることがわかった。一方、他の種類のフィラメントすなわち、微小管や中間径フィラメントなどは変化しなかった。この変化はWnt/Hedgehog経路とは独立していることがわかった。その後、YAPタンパク質の細胞内局在を解析することで、細胞株により曲祭が異なることを見出した。YAPシグナル伝達に関連するタンパク質の解析により、YAPが関与することが見いだされた。今後は、感染におけるACE2の役割を明らかにするために、さらにYAP経路の詳細な解析を行う予定である。 ウイルス粒子とACE2タンパク質との結合が細胞形態形成に与える影響を解析するため、疑似ウイルス粒子の調製を行った。SARS-CoV-2のスパイクタンパク質を発現する口蹄疫ウイルス(vesicular stomatitis virus, VSV)の疑似ウイルス粒子を常法により作製したところ、一部の疑似ウイルス粒子のみにスパイクタンパク質の発現が認められた。この原因は過剰なコロナウイルススパイクタンパク質の発現がVSVの感染を阻害することで、スパイクの発現レベルが低い細胞に優先的にVSVが感染し、スパイクタンパク質が少ない疑似ウイルス粒子が生成されることが明らかになった。適切なコロナウイルススパイクタンパク質の発現レベルを持つ安定細胞株を樹立することで、スパイクタンパク質を均一に持つ疑似ウイルス粒子を生成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、1)ACE2と線毛の関連性の解明、2)ACE2とシグナル伝達経路の関連性、3)糖尿病・肥満者の罹患率上昇に寄与すると考えられる経路の特定である。第一の目標は、ACE2が線毛には局在しないことを確認し、あらゆる実験と文献検索により徹底的に調査し完了した。第二の目標は、ACE2発現細胞と非発現細胞の違いを解析し、形態的な違いを発見し、EMT(Wnt/Hedgehog経路)やYAP経路など形態に関連する経路の関与を検討した。EMTは形態形成に影響を及ぼさないが、YAP経路が関与することが明らかになった。次に、この経路(YAP経路)の構成要素のうち具体的にどのタンパク質が関与するのかを個別に検討した。その結果、細胞増殖やがん化に関係する経路であるCIP経路である可能性が高いことがわかりました。今後は背景にある分子メカニズムの解明を目指す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ACE2の発現を制御する分子メカニズムを解明していく予定である。CIP経路とYAP経路を操作するための阻害薬を使用する予定である。また、関連するタンパク質を免疫蛍光法で可視化することでもアプローチする。糖尿病に関する文献を調査し、YAPと糖尿病との関連性を調べる予定である。さらに、肺上皮細胞で得られた結果を他の種類の細胞で再現し、確認する予定である。内在性ACE2発現細胞をもちいてACE2のノックダウン実験を行い、得られた細胞を比較することで、今回の結果を裏付ける予定である。
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