研究課題/領域番号 |
21F21345
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
折茂 慎一 東北大学, 材料科学高等研究所, 教授 (40284129)
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研究分担者 |
SAU Kartik 東北大学, 材料科学高等研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2021-11-18 – 2024-03-31
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キーワード | 分子動力学 / 拡散機構 / 秩序-無秩序転移 / 圧力誘起熱効果 / 全固体電池 / 固体冷却装置 |
研究実績の概要 |
現在のエネルギーと環境問題から注目されている全固体蓄電池に必要な高速イオン伝導体の開発指針を分子動力学シミュレーションから確立することを目的に、種々のタイプのイオン伝導体についての分子動力学計算を行った。 高いイオン伝導性を示すクロソボラン系の水素錯体では、アニオン(負イオン)が回転することで秩序-無秩序の構造転移が起こり、この転移する温度を低くすることが実用上重要であるが、そのためにはイオンサイズの大きなカチオン(リチウムイオンなどの正イオン)を含むことが有効であることを見出した。しかし、大きなカチオンは、イオン伝導経路を通過するのに抵抗が大きくなる傾向にあるが、大きな結晶セルを用いることでこれを避けることが示唆された。 ハニカム型の層状のイオン伝導体では、リチウムイオンなどのカチオンの存在している層の間隔を大きくすると指数関数的にそのイオンの伝導性が高くなることを、ニッケルあるいは鉄を含むテルル酸化物で、分子動力学シミュレーションから見出した。また、これらではイオンがリング状に遷移する興味ある機構の存在も見出した。 アニオン回転型の高速イオン伝導体は、アニオンの回転によるエントロピー効果で、同時に巨大な圧力誘起熱効果を示すことも見出した。この効果の値が大きいことから固体の冷媒として利用できる可能性がある。一般に普及している冷却装置あるいはヒートポンプでは温室効果ガスを利用するが、固体の熱冷媒に置き換えることでこの温室効果ガス漏洩の問題を避けられる。高いイオン伝導性を示すホウ素水素錯体では、大きな圧力誘起熱効果だけでなく、実稼働に必要な温度・圧力条件が適正にバランスしてその効果を示すことを見出した。これらが、アニオンの回転効果と低い振動数領域の特性によることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高いイオン伝導性を示す固体電解質に関して、今年度は5報を発表した。さらに、 クロソボラン系の水素錯体(LiCB11H12)の圧力誘起熱効果については1報を投稿した。これは、実験と計算のグループと共同したものであり、我々が合成した試料を提供した。また計算についても初期配置やパラメータを提供し、我々が全体を組織化して進め、大きな進展があった。高速イオン伝導についての総合論文も執筆を始めていて、海外企業の研究者も含めて、総合的にまとめつつある。 また、これまでの高速イオン伝導体の研究成果を、パーシステントホモロジー(位相的データ解析)、構造の遺伝的探索、水分子を含むホウ素系水素錯体の実験的検討など異なる観点からのイオン伝導体の研究にも寄与することができ、共著として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの我々と種々の研究者の固体の高速イオン伝導についての研究をまとめて、総合論文を完成することに注力する。それにより、本研究の目的である高速イオン伝導のガイドラインの確立を目指す。それを確実にするために、イオン伝導するカチオンでなく、その周囲のアニオンの配置をどのようにすると、高速のイオン伝導と秩序-無秩序転移の温度を下げられるかを検討する。そのために、 クロソボラン系の水素錯体でのリチウムイオン伝導からナトリウム等の種々のカチオンの伝導にも拡張して分子動力学計算を行う。同時に、水素錯体としてB12H12だけでなくCB11H12などの異なる構造に拡張して、アニオンの効果を求める。そのための力の定数等はすでに準備しつつある。 圧力誘起熱効果についてはスペインのグループと共同して、さらに理解を深める。
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