バイオフィルムは、バクテリアなどの微生物が集積した構造体である。健康問題や環境問題、工業技術と密接に関わっているが、その形成メカニズムについては不明な点が多く残されている。本研究では、まず始めに、ゼブラフィッシュの腸内を観察するための実験系を構築し、腸内細菌の挙動のライブイメージングを行った。前腸と中腸、後腸の細菌挙動を詳細に計測し、その軌跡や配向の解析を行った。次に、大腸菌の挙動を解析できるシミュレーションコードを開発した。流れ中の鞭毛挙動を詳細に調べたところ、せん断速度が閾値を越えると鞭毛が束化できなくなる現象を発見した。鞭毛が束化している場合には、大腸菌は壁近傍で一方向に安定に遊泳できた。一方、鞭毛が束化できなくなると大腸菌は遊泳できなくなり、壁から徐々に遠ざかる傾向が見られた。これらの現象はこれまでに報告されておらず、本研究で新たに発見された現象である。パラメトリックスタディを行うことで、流れ中の大腸菌の挙動の体系化を行い、現象の発生メカニズムを解明した。この成果は、物理学分野で注目されているCommunications Physics誌に査読付き論文として公表された。ゼブラフィッシュ腸内の観察においては、細菌が腸壁の窪みに集積する傾向がみられた。この現象は腸内におけるバイオフィルム形成の初期過程と考えられ、重要な発見である。観察された傾向を定量化するため、実験ケースを積み上げて検証した結果、腸内細菌は腹側よりも背側の窪みに有意に集積することが明らかとなった。さらに、連続体モデルを用いた数値解析を行うことで、腸内細菌が生物学的な走性と、壁から受ける物理的な刺激の両方の効果で背側の窪みに集積することが明らかとなった。この成果は、生物学分野で定評のあるBMC Biology誌に査読付き論文として公表された。これらの知見は、腸内のバイオフィルムの形成過程を理解するうえで重要である。
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