前年度には、積層反強磁性体を作製し、強磁性(音響)モードや反強磁性(光学)モードといった積層反強磁性体に固有の高速磁化ダイナミクスを評価した。スピン流の手法でそれらの線形モードダイナミクスに加えて、非線形領域のダイナミクスを観測できることも示した。その際、それら2つのモードが混成する特異な非線形ダイナミクスを観測することに成功した。本年度はこの成果をもとにさらに研究を継続した。モード混成ダイナミクスは反強磁性モードの固有周波数が強磁性モードの固有周波数の2倍のところで発生することが多くの実験から明らかとなった。またいくつかのサンプルにおける系統的な実験から、モード混成は強磁性モードの振幅とともに増大することも定量的に明らかとなった。解析モデルを構築し物理的な考察を進めたところ、観測された現象は、強磁性モードを固有状態とする二つのマグノンが混合し反強磁性モードを固有状態とする一つのマグノンになる、いわゆる3マグノン効果がコヒレントに生じることで発生する新しい物理現象であることが明らかとなった。積層反強磁性体では、強磁性モードと反強磁性モードに非常に強い非線形相互作用があることが明らかとなり、その強い相互作用によって比較的容易に非線形現象が発生することが理論的に示唆された。この現象はいわゆるキャビティフォトニクスでも議論されている第二次高調波発生といった現象と本質的に類似の現象であることも明らかとなった。積層反強磁性体をメモリ等に応用する際にも発現しうる効果であり、重要な知見が本研究によって得られた。実験ならびに理論モデルを併せて論文を準備中であり、まもなく投稿の予定である。
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