インド西ガーツ山脈を起源とし、世界で一番価値のある香辛料とされるクロコショウ栽培種の野生種について、西ガーツ山脈から網羅的に採取した個体を対象に母性遺伝する葉緑体DNAおよび両性遺伝する核DNAの多型データを投稿論文最終データとしてまとめた。また移住率を考慮した改変種分布モデルを用いて、前年度までに最終氷期最盛期の分布適地・逃避地を推定していたが、実際の遺伝的多様性観察値データを用いて、これらモデルから推定された逃避地から現在の分布への空間的分布拡大について検証する手法を共同研究者らの協力の下、開発した。またこれらパターンをより詳細に評価するために、集団ゲノミクスにも取り組んだ。これまでに収集してきたクロコショウDNAの質が全体として高くなかったこともあり、RAD-seq法なども供試したが、多遺伝子座の取得が困難だったことから、MIG-seq法(Suyama and Matsuki 2015)を用いて、縮約ゲノム多型情報取得を行った。クロコショウは4倍体であるため、そのために必要な倍数性生物に関連したバイオインフォマティクスのスキル習得を行った。縮約ゲノムデータからも、これまでの先行データと同様のパターンが検出され、供試した野生個体、栽培個体について、母性遺伝する葉緑体DNAの結果と併せて、野生個体と栽培個体との遺伝的関係を詳細に評価した。さらに本研究の一環として、国際的に著名な保全ゲノミクスのワークショップに参加し、データ解析などのスキル向上を計るとともに、関連研究分野の著名研究者~若手研究者との研究交流を深めた。関連して、より高度なデータ解析スキル習得のため、メリーランド大学にも一時訪問滞在した。これら研究活動を通して、西ガーツ山脈のクロコショウ保全ゲノミクスについて、当初想定して以上の成果を得ることができた。
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