研究実績の概要 |
「特異点」 というものは19世紀以来の物理学と数学の研究においてもっとも大きな役割を果たしてきた数学的概念である. 近年, 自然現象を記述する微分方程式の特異点の構造に基づき,その物理的現象の分析を厳密に行うことが可能となる方程式が増えてきたものの, 数理モデルによく用いられる「遅延型微分方程式」の特異点構造についてはほとんどわかっておらず, そういった方程式の特異点と解との関係はまだ知られていない.本研究では,遅延型微分方程式の特異点構造を解析するために新しい幾何学的理論を開発すること,及びその幾何学的理論に基づき, 遅延型微分方程式の解の特徴を研究することが主な目的である. また,一世紀間以上の研究のおかげで,常微分方程式や偏微分方程式, 並びに常差分方程式などの多くの数理モデルに対しては,モデルの「可積分性」がその方程式の特異点の性質に基づいて定義されるようになったものの,非線形偏差分方程式やそれと密接な関係にある関数方程式や遅延方微分方程式などに対しては,そのタイプの方程式における可積分性の決定的な特徴は未だに知られていない. 遅延型微分方程式などにも適用できる忠実な可積分性指標の開発はもう一つの重要な目的である.
具体的には,今年度, 非線形偏差分方程式や関数方程式に適用できる可積分性判定法の開発に向けて,「特異点閉じ込めによるfull-deautonomisation」という2次元の写像の可積分性を測るために開発された手法を用いて,様々な高次元の写像の可積分性を調べ,その手法の妥当性を確かめた. また,遅延型微分方程式などにも適用できる忠実な可積分性指標の開発に関しては,特異点閉じ込め性質を持つ遅延型方程式をいくつか構成し,それらの方程式の代数的エントロピーを推測するための新しい計算方法を考察した.
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