研究実績の概要 |
地球科学試料に含まれる希土類元素(REE)の濃度パターンにおいて見られるセリウム(Ce)異常は古海洋環境や地球大気の進化の指標として用いられてきた。しかし、このCe異常の原因であるCeの酸化過程の詳細は十分に解明されていないため、Ce異常の生成が規定する酸化還元環境を定量的に考察することはできていない。ところが近年、X線吸収端近傍構造(XANES)法によるCeの酸化還元状態の推定(Takahashi et al., 2000)、Ce安定同位体比の変動とCe異常に関わる化学反応の関係の考察(Nakada et al., 2013)などから定量的な議論に進展がみられてきた。こういった物理化学的手法が確立し、Ce異常の定量的な解釈が可能になることで、古環境学、資源科学、海洋化学などの幅広い分野での貢献が期待できる。本研究ではまず、実際の海洋環境においてマンガン酸化物が存在する酸化的な条件で、Ceはマンガン酸化物への吸着態という状態で存在し、これがマンガン団塊が持つ大きな正のCe異常の起源であることが示された。一方は、マンガン酸化物が存在しない亜酸化的な条件においても、Ceがhomogeneousな沈殿として固定化され、Ce異常を生じ得ることが示された。これらのことから、Ce異常が生じる酸化還元環境は、Eh-pH図の示すCeO2/Ce3+の酸化還元境界より上の酸化還元状態であることは示せるが、Ce異常だけではマンガン酸化物が存在する酸化的な酸化還元環境か、マンガン酸化物が存在しない亜酸化的な酸化還元環境なのかを区別することはできない。その区別は、Ce安定同位体比の変動を調べることで可能になることが先行研究で示唆されており(Nakada et al., 2013)、Ce安定同位体比とCe異常を組み合わせて用いることで定量的な(古)酸化還元状態の推定が可能になると期待される。
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