現在のリチウム系二次電池に使用されている電解液には、全体のイオン伝導に対して電極反応に関与するリチウムイオンの寄与する割合(リチウムイオン輸率)が低いという課題があり、これが急速充放電性能や高エネルギー密度化へのボトルネックの一つとなっている。本研究では、リチウムイオン輸率とイオン伝導率の両立を目指し、リチウム塩を高濃度に溶媒へ溶解させた濃厚電解液を対象として、どのようなリチウム塩を用いれば上記の特性を達成できるのか、学術的な基礎に立脚した理論的・実験的なアプローチの両面から、多数のリチウム塩を系統的にスクリーニングした。検討の結果、従来の電解質のリチウムイオン輸率(0.2~0.4)を凌駕する0.9程度のリチウムイオン輸率を示す電解液の創製に有用な新規アニオンを見出した。この値は低分子のリチウム塩、溶媒を用いた液体電解質では、これまで報告された系の中でも極めて高い値である。濃厚電解液理論に基づいたイオン輸送の精密な解析、eNMRを用いた電場下でのイオン移動度測定、分極力場を用いた分子動力学シミュレーションなど最先端分析手法に基づくイオン輸送メカニズムの詳細な解析により、新規非対称アニオンのイオン輸送への効果を明らかにした。一方で、このアニオンを用いた濃厚電解液は必ずしも十分に高いイオン伝導性を与えないことも分かった。その他、様々なリチウム塩を用いたスクリーニング試験の結果、リチウムイオン輸率とイオン伝導率には、トレードオフの関係があることを明確に示した。すなわち、高いイオン伝導性と高いリチウムイオン輸率を両立するためにはアニオンと溶媒の配位傾向のバランスが重要な設計パラメータのひとつであることを明らかにし、そのための設計指針を提案するに至った。
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