牛伝染性リンパ腫(EBL)は、牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)感染を原因とするが、BLV感染牛のうちEBLを発症するのはわずか1~5%だけであり、いまだ発症要因は解明されていない。毎年発症頭数が増加しており、大きな経済的損失をもたらしている。 本研究では、牛の生乳中の細胞外小胞(EV)に着目した。EVは、あらゆる細胞から分泌され、宿主の生体環境を反映してEVが内包する分子の種類と量が変動することが知られており、ヒトではがん診断に活用されている。EBLは牛のB細胞性リンパ腫、血液のがんであることから、EV内の分子を網羅的に解析し、内包分子がリンパ腫発症までの過程でどのような動態を示すのか解明し、新しいEBLのモニタリング技術を確立することを目指す。 最終年度である本年度は、前年度に得た成果をもとに以下の研究を進めた。①大学附属の酪農場、民間の酪農場で採血し、BLV感染量をリアルタイムPCRで定量した。おおよそ月齢を合わせた牛を選択し、BLVに感染していない健康牛6頭、BLV低コピー感染牛(BLV感染前期)8頭、およびBLV高コピー感染牛(BLV感染後期)18頭、合わせて32頭から生乳を収集し、それら3群の検体として分けた。②生乳中のEVを分離・精製後、内包するmRNAを抽出し、前年度にEBL発症を反映する生乳中のバイオマーカー候補として同定したmRNAについて、3群の生乳EV内包量を定量し、ウイルス感染量に依存し内包量も変化するのか検討した。 その結果、予想に反し、生乳EV中の2種のバイオマーカー候補mRNA内包量は、健康牛と比べBLV低コピー感染牛で有意に増加するが、BLV高コピー感染牛では減少し健康牛と有意差が認められなかった。以上より、生乳EVが内包するEBL発症バイオマーカー候補としたmRNA量は、ウイルス感染量とは異なる動態を示すことが示唆された。
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