研究課題/領域番号 |
22F22328
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
柳 哲文 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (60467404)
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研究分担者 |
ESCRIVA MANAS ALBERT 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2022-11-16 – 2025-03-31
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キーワード | 原始ブラックホール |
研究実績の概要 |
原始ブラックホール(PBH:Primordia Black Hole)の質量は形成当時の宇宙の状態方程式に強く依存する.一方,我々の宇宙はこれまでに,QCD相転移や電弱相転移などのいくつかの相転移を経験したと考えられており,この相転移時期には実効的に状態方程式が柔らかくなることが知られている.本研究では素粒子標準模型を超えた理論モデルにおいて予言される相転移を考え,それに伴う状態方程式の変化が原始ブラックホール形成に与える影響を調べた.特に相転移が滑らかなクロスオーバーとなっている場合に注目し,10の-16乗太陽質量から10の-6乗太陽質量の質量範囲において,原始ブラックホール量の増幅が期待されることを示した. QCD相転移の時期に形成される原始ブラックホールの質量は重力波によって観測される原始ブラックホールの質量付近に相当することがしられており,QCD相転移による状態方程式の軟化が,原始ブラックホール形成に与える影響は非常に注目されている.本研究では状態方程式の変化を考慮した,詳細な原始ブラックホール形成シミュレーションに予言される原始ブラックホールの質量分布を重力波によって観測された連星ブラックホールの分布と比べることで,原始ブラックホールが起源となる可能性を検証した.本研究で用いた状況設定においては,原始ブラックホールのみを起源として観測結果を再現するには至らず,標準的な天体起源のブラックホールの寄与が必要となることを示唆する結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの原始ブラックホール研究では状態方程式が,エネルギー密度ρと圧力pの関係としてp=wρとして比例関係にある場合が主に扱われてきたが,QCD相転移時のようにこのような状態方程式とならず,状態方程式が密度に依存して変わるような場合について,原始ブラックホール形成のシミュレーションを行い,その結果を用いて観測結果の検証を行うことが出来た.これは当初の計画に含まれていた内容であり,概ね順調に進展していると言える. 現在はインフレーション中のドメインウォールバブル形成による原始ブラックホール形成についての研究を推進しており,これまでに考えられてこなかった,標準的な原始ブラックホール形成とは異なるシナリオについて,数値計算を駆使した研究を進めている.これまでの標準的な原始ブラックホール形成シナリオと異なるシナリオについて数値手法を駆使してフロンティアを切り開くという点で本研究内容にふさわしく,概ね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
現在行っているインフレーション中のドメインウォールバブルの形成に伴う原始ブラックホール形成についての成果を学術論文として発表する.また,これまでの計算ではインフレーション中のスカラー場のダイナミクスを数値的に解析することによって原始ブラックホールの質量分布を見積もったが,本来はインフレーション後のダイナミクスを数値的に解析する必要がある.しかしこの場合に形成される原始ブラックホールはTypeIIと呼ばれ,広く用いられている数値シミュレーション手法では解析できないことがわかっている.この点について,所属する研究室で行われている特殊な数値シミュレーションコードを用いることで解決し,協力して研究を進めていく予定である. Qボールなどのソリトン天体や位相欠陥の重力崩壊に伴う原始ブラックホール形成については,今後のシミュレーションを念頭に置いて,状況を整理し,可能なセッティングをサーチすることで,ダイナミクスの数値シミュレーションにつなげる.
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