Siを用いた光導波路や共振器に基づく光回路は、光通信波長帯域における高度な光情報処理を可能にするための基礎技術として注目を集めている。これに対して、SiCを用いた光回路は、Siでは不可能な可視~近赤外帯域での動作が可能であることや、SiC自体が量子光学的特性をもつ発光性結晶欠陥を内包しうるといった特長をもつ。本研究では特に、SiCを用いた近赤外での微小共振器に着目し、これをSiCの発光性結晶欠陥と組み合わせることで、単一光子光源の実現を狙った研究を行った。 R3年度においてはSiC中の有用な発光性欠陥の偏光特性がTM偏光であることに着目し、TM偏光に対してフォトニックバンドギャップ(PBG)を持つ構造を検討し、孔型フォトニック結晶と柱型フォトニック結晶の2層構造を用いれば、TMのみならずTE偏光に対してもPBGを開くことができることを発見した。 R4年度においては2段階エッチングにより上記構造を作製する手法を開発し、提案構造による900nm帯のSiCフォトニック結晶を形成することに成功した。また白色光源を用いた観測より、確かにTE/TM両偏光にPBGが生じていることも確認できた。しかしながら、900nm帯域で利用可能な可変波長レーザの帯域が限られていたため、白色光源を用いた測定に頼らざるを得ず、共振器や導波路の動作を確認することができなかった。 R5年度は十分広い波長可変帯域を持つレーザーが利用できる光通信波長帯域で提案構造を作製し光学評価を行うことで、共振器および導波路の動作を確認することに成功した。また、これまでの研究に伴う様々な調査によりSiCの発光欠陥はフォノンとの相互作用が強いことが分かってきたので、フォノンが共振器と発光体の相互作用に与える効果を定量的に分析できる理論の構築を試み、フォノンサイドバンドを介した発光も場合によっては利用可能であることを示した。
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