トレース付きモノイダル圏(traced monoidal category)とは、テンソル積と、行列の対角和(トレース)を抽象化したトレース演算子を持つ圏であり、数学・物理学・計算機科学等の様々な分野で重要な応用を持つ構造である。一方、圏上のモナドは、その圏の対象のうえの代数の圏(Eilenberg-Moore category)を定めるが、もとの圏の持つ構造・性質がモナドの代数の圏に持ち上げられるかどうかは、理論・応用両面から重要な問題であり、古くよりよく研究されてきた。本共同研究では、トレース付きモノイダル圏の構造を持ち上げるモナドの特徴づけという長年の未解決問題について、近年発展が著しいホップモナドとの関係を中心に調べた。受け入れ研究者(長谷川)はトレース付きモノイダル圏を長く研究してきた一方、特別研究員(Lemay)はモノイダル圏上のモナドや余モナドについて詳しく、両者の知見を合わせ議論を進めた。 ホップモナド(Hopf monad)はモノイダル圏上の双対性を持ち上げるモナドであり、モノイダル圏における双対性とトレースの密接な関係から、トレースを持ち上げるモナドとも深く関係することが予想されていた。本研究では、ホップモナドがトレースを持ち上げるための必要十分条件を特定するとともに、トレースを持ち上げないホップモナドや、ホップモナドではないがトレースを持ち上げるモナドの実例を多数構築することに成功した。この方面でのおそらく最良の成果であり、今後、トレース付モノイダル圏の一般的な構成方法として、広く応用されることが期待される。
|