哺乳類を含めてほとんどの脊椎動物が保持している歯の形態は、その動物の食性と密接に関連していることが知られている。例えば、肉食性動物は食物である肉を切り裂くような形態を持った歯列をもっている。これに対して、植物食性の動物は、食物である葉や草を咀嚼して消化しやすい形にするための形態的特徴をもっている。本研究では、新生代新第三紀(約2500~260万年前)にユーラシア大陸に生息していた植物食性の化石霊長類であるオナガザル科コロブス亜科の化石歯冠部の3次元形態を解析し、現生種の歯の形態と比較することにより、その生存時の食性復元を行い、コロブス亜科における葉食性の起源とその進化プロセスについて検討した。 研究対象とした標本は、京都大学犬山キャンパスヒト行動進化研究センター(旧霊長類研究所)に所蔵されている現生コロブス亜科の骨格標本と高井研究室で所蔵しているユーラシア大陸各地で見つかっているコロブス類の歯牙化石の複製模型(キャスト)である。これらの標本のマイクロX線CT画像の撮像を行い、取得したコロブス類の歯冠部の3次元データを、分担者であるティエリーThiery博士が開発した専用ソフトで解析した。このデータを、ティエリー博士がフランスで取得したヨーロッパ各地から見つかっている化石コロブス類のデータと比較し、コロブス亜科における葉食性への適応形態がどの年代の化石種から顕著 になってきたのかを明らかにした。現在、解析結果に基づいてコロブス類における葉食性の進化の起源時期とその背景となる環境的な変化という観点から考察している。これらの研究成果の一部は、2023年6月にスペインで開催されたEuropean Association of Vertebrate Paleontologyと2023年8月に東京で開催されたAsia Paleontological Congressで発表した。
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