サンゴの一斉産卵が満月の時期に見られることにより、これまで月光が産卵の合図となっていることが予想されていた。しかし、最近の我々の研究により、月光が産卵の抑制因子(サプレッサー)として働き、その効果は月光が太陽光と連続している場合でのみ有効で、その間に暗い時間帯(光のギャップ)が存在すると月光の抑制効果は失われ、その4-6日後に産卵することを明らかにした。自然界では、満月の日を境に、月の出時刻が日の入り時刻の前から後へと変化する。そのため、満月の日以降に、光のギャップが出現し、これが産卵の合図となるわけである。しかし、これらは一つのサンゴ種(キクメイシ)でしか確かめられていなかった。そこで、初年度において、フィールド実験を中心に、先行研究で見いだされた産卵を誘導する合図の効果を複数のサンゴ種で検証した。その結果、実験に用いた4つのサンゴ種の内、3種がキクメイシと同じ合図で産卵が誘導されること、また1種(ミドリイシ)が月光の有無に関わらず産卵することが明らかとなった。次年度では、より幅広いサンゴ種で検証するために、異なる属に含まれる6つのサンゴ種を用いて水槽実験を行った。その結果、やはりミドリイシ以外では、キクメイシと同じ合図で産卵が誘導されることが明らかとなった。また公表されているサンゴの産卵パターンを解析した結果、ミドリイシとその他のサンゴとでは産卵パターンが顕著に異なることが分かった。これらのことより、サンゴの産卵を誘導する合図はサンゴ種間で異なっており、その違いで産卵パターンが異なることが示された。
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