本研究課題の目的は、片眼弱視患者の視力と立体視力を向上させる新たな両眼視訓練法を開発することであった。新しい訓練法において、弱視患者は両眼開放した状態で弱視眼に呈示された刺激を検出した。このとき健眼にも刺激が呈示されるが、健眼に呈示される刺激の輝度コントラストには低コントラストから高コントラストまで4つの段階があった。弱視眼に呈示された刺激の輝度コントラスト閾を計測し、訓練によって閾値がどのように変化するかを検討した。また、訓練の前後において視力、立体視力、視覚運動協応のテストを行い、これらの計測値における訓練効果についても調査した。両眼統合を訓練する手法は以前にも提案されているが、本研究で用いた手法は左右眼に同じ形状のパターンを提示しているために視野闘争が起こりにくいという利点がある。 本研究の特色として、交代視を伴う片眼弱視患者を対象に実験を行った点があげられる。通常、片眼弱視患者は交代視をせず一方の眼のみを使用しているが、不同視が原因の弱視患者の場合には交代視も持つことがある。本実験において、交代視のない患者の弱視眼における閾値は健常者よりも高かった。一方、交代視を伴う片眼弱視患者の閾値は健常者よりも低くなっていた。これは、健眼に提示された刺激を無視することができるためであると考えられる。しかし、この閾値低下は訓練が進むと減少し、健常者の閾値に近くなっていった。訓練前においては一方の眼のみを使用していたのに対し、訓練後には左右両方の眼を使用するようになったため、閾値が上昇して健常者の値に近くなったと思われる。交代視を伴う片眼弱視患者2名のうち1名は弱視眼における視力と立体視力が向上した。こうした結果から、左右眼を刺激した状態での弱視眼における刺激検出を訓練することによって、交代視を伴う弱視患者において両眼統合が改善されることが示唆された。
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