肺神経内分泌細胞(PNEC:Pulmonary neuroendocrine cell)は、外環境の酸素濃度の変化を感知し、生理活性物質の分泌を介して生体の恒常性維持に関与すると考えられている。しかし、その生理学的、病態生理学的役割の詳細については未だ不明な点が多い。申請者は外界の酸素濃度の変化によって肺において生理活性物質のエンドセリン-2(ET-2:endothelin-2)が一過性の発現亢進を示すという予備的研究成果に基づき「ET-2がPNECの機能発現に重要な分子である」という仮説を構築した。本研究では、酸素環境の変化に伴うPNECのET-2を介した生理機能、およびPNECから分泌されるET-2による呼吸器疾患の発症や進展への関与について解明することを目的とした研究を計画し、以下の成果を得た。 ①ET-2レポーターマウスの作出、解析:ET-2の遺伝子座に超高輝度発光タンパクの機能を持つYeNL2.0-CL1-PEST遺伝子をノックインしたマウスをCRISPR/Cas9システムを用いて作出した。レポーターマウスから摘出した肺を用いてex vivoで発光タンパクの発現を確認できた。 ②PNEC特異的ET-2遺伝子欠損マウス(Ascl1-ET2-KO)の作出、解析: Ascl1-ET2-KOマウスを急性低酸素暴露から正酸素状態に戻したところ、野生型マウスで認められたET-2の一過性発現亢進がAscl1-ET2-KOマウスでは認められなかった。次にAscl1-ET2-KOマウスを3週間の低酸素状態で飼育したところ、野生型マウスと比較して肺高血圧症の増悪を認めた。すなわち、PNECは酸素濃度を感知してET-2の一過性発現亢進を介して肺高血圧症の病態に関与していることが示唆された。 これらの成果は肺高血圧症の病態にPNECが関与している可能性を初めて示唆した研究として注目される。
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