研究実績の概要 |
本年度は、非常に高い安定性と高効率の赤色蛍光を示すナノグラフェンであるジベンゾ[hi,st]オバレン(DBOV)誘導体の合成に取り組み、溶液中での紫外可視吸収および発光スペクトル測定、さらに発光量子収率測定により光電子物性を評価した。DBOV誘導体の合成は、主に位置選択的ブロモ化も経て鈴木・宮浦カップリングにより行い、ベイ領域に異なる置換基を有する複数の新規誘導体の合成に成功した。特に、電子求引性の置換基の光電子物性への影響を調べるためにナフタレンモノイミド(NMI)とペリレンモノイミド(PMI)の導入を検討し、それぞれドナー・アクセプター構造となる一置換体およびアクセプター・ドナー・アクセプター構造の二置換体を合成、NMRと質量分析により構造を同定した。紫外可視吸収スペクトルは一置換体と二置換体で大きく異なり、アクセプター部位の数と構造全体の対称性が光電子物性に大きな影響を与えることが示唆された。発光スペクトルは超波長側にシフトし、PMI部位を導入したDBOV誘導体では、一置換体と二置換体がともに750nm程度を極大とし、約1000nmまでの幅広い近赤外領域での蛍光が明らかとなった。一方で、発光量子収率はNMI置換体がともに9%となったに対して、PMI置換体は24-25%であり、異なるアクセプター部位を導入することにより吸収・発光特性を制御可能であることが実験的に示唆された。今後リン光スペクトルとリン光寿命の測定を進めつつ、超高速過渡吸収測定により、詳細な光物性を明らかにしていく。
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