研究課題
秩序状態の形成と消失の臨界点近傍の物性は、固体物性の中心的課題の一つである。遷移金属化合物における遍歴電子磁性と、4f電子系における重い電子状態は、上記の点で興味深く、ともに大きな研究領域を形成している。理論的には共通の枠組みでとらえられることも多いが、実験的には、両者が同時に発現するような物質は極めて少ない。本課題では3d電子と4f電子が強く相関しあって、両者がともに磁性不安定性近傍に位置するような物質に対して、磁場や圧力などの外部パラメータを制御して新規な物性を開拓し、起源解明を目的として行うものである。特に我々はこれまで物性の詳しい研究がなされていなかったラーベス相化合物YbCo2に対して、良質バルク試料の作成に成功し、低温の物性を調べた。磁化率測定の結果、Ybはほぼ3価であり、Coも磁気モーメントを担っていることがわかった。比熱測定の結果、0.4 Kの低温まで磁気秩序が見られないが、7 J/mol K2を超える巨大な電子比熱を示すことが見出された。磁場を印加すると、磁気秩序のような異常が現れ、この異常は磁場の増加とともに高温側に移動しており、強磁性に類似していることがわかった。比熱の詳細な解析により、低温側の大きな電子比熱は結晶場を仮定した4f電子の寄与だけでは説明できないことがわかった。そのため強磁性秩序近傍の3d電子が4f電子と結合して生じた磁場誘起磁気秩序であることが示唆された。同様な異常な物性を開拓するために、スクテルダイト系に注目した。これまでにYbFe4Sb12で圧力や原子欠損によるYb価数転移とFe強磁性が観測されている。一方、YbxCo4Sb12ではYb価数は圧力の影響を受けず、ほぼ2価のままであった。さらにYbMn2Sb2、YbMn2Ge2、YbCuxなどについて圧力下分光を測定し、非常に興味深いYb価数転移がいくつかの物質で観測された。
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