冬眠する哺乳類は、代謝を抑制しエネルギー需要を下げることでエネルギーを節約し、時には正常時の5%まで酸素消費量を減らすことができる。冬眠は全身性の生理現象であり、中枢神経による制御が示唆されているが、はっきりとした機序は明らかになっていない。もし脳と冬眠誘導との関連を解明できれば臨床目的に冬眠を応用することが可能になりうる。そこで、本プロジェクトは冬眠のトリガーを明らかにすることを目指し、視神経の手術と網膜の代謝測定を用いて、冬眠誘導が血液によるものなのか神経によるものなのかを調べた。また、並行して冬眠を引き起こす可能性のある分子を特定するためにマウスの神経細胞の初代培養系の確立を試みた。クロザピンN-オキシド(CNO)を腹腔内投与することで冬眠様状態(QIH)に入るマウスを用意し、視神経を切断し、冬眠前後で網膜の代謝を測定した。これにより、網膜のような神経組織において冬眠誘導に神経系入力が必要かどうかを判定しようとしたが、QIH中も網膜の代謝が高く、神経性の入力の必要性を結論できなかった。光に対する電気的反応も高いままだったことから、冬眠中の網膜は体の他の部分とは異なる反応を示す可能性があると考えられた。さらに、QIH中の網膜の代謝を定量するために網膜を摘出した後にフラックスアナライザーで代謝を計測する系を構築した。この系を用いて、網膜の異なる部位での代謝差がないことを示した。最後に、神経細胞を収穫し、3週間にわたって培養することで、冬眠を開始する化学物質をスクリーニングするための基盤を築いた。
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