研究課題
近年の世界規模での気候変動が、疾病媒介蚊の生存率や吸血頻度の上昇、繁殖サイクルの短縮、活動時期の長期化などをもたらし、新興・再興の蚊媒介性ウイルス感染症の流行拡大が懸念されている。しかし、ほとんどの蚊媒介ウイルス感染症に対する治療法やワクチンの選択肢は限られており、また薬剤抵抗性蚊の出現により現行の防疫用殺虫剤の有効性も低下しつつあることから、革新的な防疫方策の確立が急務となっている。近年、生物学的防除法は有望視されている方策の一つであり、実用化に向けては媒介蚊のマイクロバイオームや宿主蚊・病原体・非病原性因子間の相互作用に関する包括的な理解が必要である。蚊に感染している昆虫特異的ウイルス(ISV)は、哺乳類細胞内で複製できないが、蚊媒介性ウイルスの制御が可能な生物防除剤の候補として注目される。本研究では、蚊はその種類により異なるViromeを保持し、ISVを中心とした多様なウイルスの宿主となっていることが明らかとなったため、これらISVが蚊媒介ウイルスの動態や伝播に与える影響について調査した。その結果、ISVの存在は、調査した蚊コロニーにおける日本脳炎ウイルス(JEV)の媒介能には大きな影響はないことが示唆された。しかし、チカイエカを用いた実験では、ISVの一種である Culex flavivirusに感染したコロニーでは、CxFVに感染していないコロニーと比較して、感染初期におけるJEVの体内拡散効率が低いことが判明した。これまでにもISVと蚊媒介ウイルスの重感染時の相互作用については様々な研究がなされているが、これらのメカニズムを完全に理解するにはより詳細な調査が必要である。ISVの地理的分布と宿主範囲が広いことを考えると、その多様性と蚊媒介ウイルスへの潜在的影響を解明するとともに、生物防除剤としての利用を検討するためには、さらなる研究が不可欠である。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
Journal of Medical Entomology
巻: tjae011 ページ: In press
10.1093/jme/tjae011
The Microbe
巻: 2 ページ: 100037~100037
10.1016/j.microb.2024.100037
Viruses
巻: 15 ページ: 239~239
10.3390/v15010239
Parasites & Vectors
巻: 16 ページ: 99
10.1186/s13071-023-05713-4
巻: 60 ページ: 620~628
10.1093/jme/tjad028
Tropical Medicine and Health
巻: 51 ページ: 61
10.1186/s41182-023-00553-5