研究課題/領域番号 |
22F30793
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
朴 昊澤 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), グループリーダー代理 (10647663)
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研究分担者 |
HU GUOJIE 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 北極環境変動総合研究センター, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2022-07-27 – 2024-03-31
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キーワード | 永久凍土 / 陸面過程モデル / 地下氷 / 活動層 / 土壌水分 |
研究実績の概要 |
凍土の水・熱フラックスに対する地下氷の影響を評価するために陸面過程モデルCHANGEに地下氷のスキームを取り入れ、そのモデルをシベリアのチクシの観測サイトに適用してモデル検証を行った。地下氷を考慮した時、潜熱へのエネルギーの分配率が増え、従来のモデルにおける地温の高温バイアスが改善でき、観測した地温と活動層の季節・経年変化を精度よく計算していたことを確認した。特に、活動層に対する地下氷の抑制は苔層に匹敵するほど、最大40cmを低下させていたことが明らかになった。 一方、温暖化の影響により地温が上昇した時、地下氷が融解して土壌は湿潤になり、凍土中に蓄積していた有機物の分解が早まることも考えられる。温室効果ガスに対する地下氷の影響を評価するために温暖化実験の結果(RCP 8.5)を用いて、2100年までに地下氷の有無のモデル実験を行った。地下氷を考慮した場合、2050年頃までに潜熱が大きくなり地温上昇を抑制していたが、その後から融解が急速に進み、2090年頃にはほとんど融解していた。しかし、地下氷の融解開始・終了のタイミングは氷の含量とその分布の深さによって異なっていた。地下氷の融解により土壌は湿潤になり、そこから土壌有機物の分解も進み、凍土から二酸化炭素とメタンの放出が大きくなっていた。この結果により、凍土の温暖化に対する地下氷の負の効果、そして融解時に温室効果ガスの放出を通しての北極温暖化の増幅に対する正のフィードバックを強めるメカニズムが明らかになった。一方、ほとんどの気候モデルが地下氷のプロセスを考慮していないことから、そのプロセスの取り込みが急務であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
地下氷プロセスのモデルを構築して、観測サイトに適用してモデルの検証を行い、モデルの有効性を確認した。また、温暖化実験を行い、凍土や気候に対して地下氷の影響も評価した。その結果のもとで気候モデルの改善点も提言できた。 構築したモデルと国際永久凍土協会が提供している地下氷の分布図を用いて、環北極域における地下氷の影響を評価することが当初の研究計画であった。しかし、土壌において地下氷が出現する表層とその深層の深さに関するデータの不足により計算の遅れが発生した。それらに関する観測データは極めて少なく、旧ソ連時代にロシアの永久凍土研究所が東シベリアの一部の地域で実施した凍土のボーリングの結果が有効であることになり、そのデータの交渉を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
旧ソ連時代にロシアの永久凍土研究所が実施した観測データが入手できる次第、遅れていた環北極スケールにおける地温・気候に対する地下氷の影響を評価する。 土壌水分の凍結時に活動層内の透水性水量を過大評価するモデルの問題を解決して、異なる気候帯・植生帯の地域においてモデルを検証する。また、異なる熱伝導率のスキームを用いた比較実験を行い、熱伝導率のパラメータを改良した上で、気候シナリオ(SSP)に基づいた将来予測結果(CMIP6)を用いて、北極陸域における永久凍土の分布、活動層、植生分布、そして土壌水分の変化を2100年まで計算する。その結果のもとでfusion technologyにより、高解像度(1kmと0.1°)のデータセットを作成し、永久凍土の変化に対する微地形の影響を評価する。
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