研究課題/領域番号 |
20J00656
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
特別研究員 |
龍見(岩岡) 史恵 北海道大学, 農学研究院, 特別研究員(CPD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2026-03-31
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キーワード | 土壌微生物 / 微生物間相互作用 / 植物ー微生物相互作用 / 微生物間ネットワーク / 菌根菌 / 腸内菌叢 / 硝化 / 窒素循環 |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルスによる影響を含む複数の事情によりザンビアへの渡航が難しく、ザンビアから輸入した鉛・亜鉛汚染の影響を受けた土壌、アメリカ・ボストンにおける都市化による土壌汚染の影響下にある土壌、北海道の化学肥料・農薬を用いない水田の土壌などを用いて、ストレス下における植物―土壌微生物間の相互作用の理解、および、植物生育の健全化に寄与する土壌微生物の導入法についての研究を進めている。当該年度の研究により、都市化の影響下では、植物と共生関係にある外生菌根菌の土壌に占める割合が低下し、また、菌根化率も低下することが明らかとなった。外生菌根菌は、自然状態に近い森林では微生物ネットワークの中心に位置していたが、都市部ではその様子は見られなかった。微生物ネットワーク構造の複雑性は、葉の窒素濃度の上昇とも関連していた。外生菌根菌の代わりに増加していたのは、植物病原菌、動物への寄生菌、硝化や脱窒を駆動する細菌、生体異物分解能の高い細菌などであった。また、人間活動の影響を強く受ける林縁部では、微生物群集の組成が変動しやすく不安定であり、乾燥した土壌ほど安定性が低かった。さらに、化学薬品の投与の多い水田土壌では、腐生菌および窒素循環に関る細菌の多様性が低下し、ネットワーク構造の複雑性も低下していることが明らかになった。このように、人間活動の影響によるストレス環境下では、植物と菌根菌の共生関係や、菌根菌を含む土壌微生物の間の関係性がかく乱され、病原菌や窒素循環に関る微生物にも影響が及ぶことなどが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスによる影響を含む複数の事情により、ザンビアに渡航することはできていないが、現地から輸入した試料を分析し、鉛・亜鉛汚染下の土壌に成立する微生物群集の研究を進めている。また、鉛・亜鉛汚染に限定せず、臨機応変に、様々なストレス環境下にある土壌を対象に、各ストレスがどのように土壌微生物、特に植物と共生関係を持つ微生物の生態を変化させるのか、また、ストレス環境下ではどのような土壌微生物の導入が植物の生育や健康に貢献するか、についての研究を順調に進めることができており、複数の論文を投稿できる目途が立っている。
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今後の研究の推進方策 |
目的①②に関して、まず、ザンビアから輸入した土壌の分析を進め、生育良好な個体周辺に共通する特異的な微生物要素についての分析を進める。また、室内実験により、鉛・亜鉛および有機物の添加に対する土壌微生物群集の応答に関するデータを集めており、これの解析を進める。特に、汚染下で低下する栄養塩循環に関る微生物の量や組成を特定し、植物の存在下で増加すると考えられる有機物が、これらの微生物要素を回復させるのか見たいと考えている。加えて、重金属汚染度とも関連する都市―郊外傾度を用いた研究から、ストレスの多い環境では、植物生育に大きく貢献すると考えられる外生菌根菌が土壌における優占度や菌根化率を大きく低下させている様子が見えてきた。この系を用いて、実際に外生菌根菌が発揮する機能(養分獲得能など)にも影響しているのか確かめる予定であり、土壌中のmRNAを用いた分析を進めている。ここで得られた結果と、各サイトの植物の栄養塩濃度のデータを結び付け、ストレス環境下における土壌微生物の機能と植物の生育についての理解を深めたい。目的③に関して、ストレスの大きい都市環境における土壌に、自然状態に近い森林の土壌を加えて、土壌微生物群集の機能および植物の生育が改善されるのか観察するポット実験をスタートさせており、定期的に土壌を採取して経過を観察する予定である。また、それぞれ異なる生息域由来の真菌と細菌を混合し、群集の再構築過程を観察する実験を行っており、分析まで完了させた。この実験の解析についても進め、結果を統合して、外部から持ち込んだ微生物が、元々いた微生物とどのように群集を再構築するのか、さらにその新しい微生物群集は理想的な機能を発揮するのか、について理解を深める。これらの研究成果を随時論文としてまとめていく予定である。
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