研究課題
本年度からアメリカに渡航し、モンタナのFlat Head Lake Biological Stationを拠点にモンタナの河川(Nyack floodplain)での研究を始めた。同じ河川の中で氾濫履歴などの異なる二か所において、溶存酸素濃度動態による河川メタボリズム(河川の一次生産と呼吸量)の推定と河川の底生生物の現存量評価、さらに河川における窒素固定速度と底生生物による窒素の無機加速度を計測し、河川水中の物質循環における底生動物の寄与について定性的な評価を行った。これらの研究から、同じ河川でも自然の複雑な氾濫原地形がある中では場所によって攪乱履歴が異なり、それによって河川水中の栄養塩循環とそれに対する底生生物の寄与も異なっていることが分かった。河川の氾濫時の攪乱動態の異質性をもたらす氾濫原地形の形成および河川流量の変動についてよりよく調べるため、現在はコロラド州立大学の地学部に滞在し、地形学者と共同で河川の地形と生物応答を包括する文献のレビューを進めている。特に、自然河川地形の形成要因として土砂・倒木・水の変化の動態が重要であるという点に着目し、それらがどのように河川及び渓畔林の生物相に影響するのかについて取りまとめている。その成果として、共著論文一本が国際誌に掲載され、さらに2本の共著論文が準備中である。次年度はさらに河川地形と氾濫動態がどのように生物の分布を形作り、底生生物などの消費者の栄養塩循環への寄与に影響するのかを、より大規模な調査で検証する予定である。アメリカ渡航前に日本の琵琶湖流入河川で行った消費者が河川の栄養塩循環に果たす役割に関する研究についても成果をとりまとめ国際誌として論文投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
COVIDにより延期していたアメリカでの研究について、ようやく実現することができた。当初予定していた溶存酸素動態による河川メタボリズムの推定、および河川底生生物が栄養塩循環に果たす役割についての推定を行うことができた。さらに、当初の計画に加えて、これらの数値が同じ河川でも地形によって大きく異なることを突き止め、その要因として氾濫時の攪乱履歴が栄養しているらしいこともわかってきた。河川攪乱と氾濫原地形の形成に関して、地形学者と共に文献のとりまとめを行うこともできた。一方で調査時期の関係で、当初予定していた水生昆虫の羽化量の推定は行うことができなかったので、これらは2023年度以降に追加での計測を行う予定である。
河川地形と氾濫動態がどのように生物の分布を形作り、底生生物などの消費者の栄養塩循環への寄与に影響するのかを、より大規模な調査で検証する予定である。自然の氾濫原地形の残存するモンタナのSwan Riverにおいて、河川地形と生物の分布・栄養塩循環を合わせて調べることで、自然の河川地形がどのように生物相およびその河川栄養塩循環における働きを形成しているのかについて調べる。さらに、過去数十年の航空写真を解析することにより着目する河川の地形がどのように変化してきたのかについて調べることで、河川地形のダイナミックな変化がどのように現在の河川地形を形作り、現状の生態系を形作っているのかを明らかにする。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件)
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巻: - ページ: -
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