研究課題/領域番号 |
21J20076
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐藤 紫乃 北海道大学, 大学院情報科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 量子ドット / スピン増幅 / 希薄窒化物半導体 / スピンダイナミクス / 光スピントロニクス |
研究実績の概要 |
電子のスピン偏極状態を反映した円偏光を発するスピン発光デバイスの実現には,室温で高い電子スピン偏極率と十分な発光強度を両立する必要がある.上記の光スピントロニクスデバイスの発展には,金属では原理的に難しい光電変換や電界操作が可能な半導体中で電子のスピン偏極を保持する必要があるが,従来のバルクや量子井戸では,実用に必須の室温においてスピン偏極が急速に失われてしまうという課題がある.そこで本研究では,電子のスピン偏極を長時間保持できるととも,電子を高い効率で光へと変換可能なⅢ-Ⅴ族半導体量子ドット(QD)に,室温でスピンフィルターとして機能する欠陥準位をもつ希薄窒化ガリウムヒ素(GaNAs)を組み合わせ,室温において高輝度発光と高スピン偏極発光を同時に達成する半導体光デバイスの実現を目指している. 初年度は,InAs QDとGaNAs量子井戸(QW)をトンネル結合させた試料をプラズマ支援型分子線エピタキシー法により作製し,GaNAs QWの厚さがQDのスピン発光特性に与える影響について研究した.GaNAs QWを薄くすることで欠陥準位の数が減少するため発光強度が高くなり,より少ないキャリア注入量でQDのスピン偏極率が最大になることを確認した.この結果は,GaNAsを利用したスピン発光デバイスの性能を向上させるためには,GaNAs中の欠陥数の制御が重要であることを意味している. さらに最近では,GaNAs QWの位置によってQDの発光特性が異なることがわかり,その原因を明らかにするために現在研究を推進している.以上の結果から,次年度はQDとGaNAsの位置関係を変えた試料の作製や,急速加熱処理等を用いたGaNAs中の欠陥密度の制御を試み,室温でさらなる発光強度・発光スピン偏極の向上を図る.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は,窒素プラズマを用いた分子線エピタキシー法において,希薄窒化ガリウムヒ素(GaNAs)の成長条件を確立し,InAs 量子ドット(QD)とGaNAsを用いた様々な試料を高い結晶品質で作製することに成功した.作製した試料の円偏光Photoluminescence(PL)分光により, QD基底準位のスピン発光特性は,トンネル結合したGaNAs層の膜厚や位置の影響を受けることを明らかにした.このように,今年度はQDとGaNAsの複合構造を作製するために重要な成長条件を確立し,GaNAs中の欠陥数の制御がQDのスピン発光特性の向上に有効であるという,次年度以降の研究に繋がる貴重な知見が得られた. 当初計画していた小型電磁石を用いたPL測定は,予算の都合上実験系を構築することができず令和3年度中には実施できなかった.現在は小型電磁石を用いたPL測定系の構築が進んでいるため,令和4年度中には実施できる見込みであり,研究計画の大きな変更は必要無い.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,初年度に引き続き室温高輝度・高円偏光発光を実現可能な量子ドットと希薄窒化ガリウムヒ素(GaNAs)の複合構造を模索する.はじめに,これまでは量子ドットの下部に作製していたGaNAs層を量子ドットの上部にも作製し,量子ドットのスピン発光特性に与える影響について詳細に研究する予定である.また,スピン発光デバイスへの応用の観点から,光学活性層周辺だけでなく,半導体誘電バリア層においても電子スピン偏極を保持または増幅する.具体的には,GaNAsを用いた超格子構造を開発し,電子スピンの輸送ダイナミクスを調べることを計画している.さらに,高円偏光発光を維持しつつ発光強度を高めるため,急速加熱処理によるGaNAs中の欠陥密度の制御を試みる.急速加熱処理による制御が難しい場合は,GaNAs層の組成条件と成長条件の最適化により発光強度の向上を図る. 上記に加え,小型電磁石を利用した横磁場中での時間分解Photoluminescence分光を行い,GaNAs中の局在準位における電子スピンの位相緩和現象を明らかにする予定である.この実験を通してQDやバリア中でのスピン緩和現象を詳細に理解することで,スピン偏極の更なる向上に向けた新たな量子構造の探索やスピン位相情報への展開を模索する.
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