研究課題/領域番号 |
21J20107
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高田 佑太 北海道大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | K3曲面 / 超幾何群 / 格子 / 力学系 / エントロピー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,K3格子上の自己同型の構成に超幾何群の理論を導入することで具体例を量産し,その結果を解析することでK3曲面上の力学系に対する理解を深めること,特にエントロピースペクトラムを決定すること,さらにその過程において超幾何群の理論と格子上の自己同型の理論の発達させることであった. 本年度はまず,以前からもっていた,超幾何群の理論を用いたK3格子自己同型の構成の計算プログラムを,Mathematicaというソフトで書き直し,同時にいくつかの改良を加えた.それを他の研究者と共有できるように共同研究者である岩崎克則(北海道大学)のホームページに公開した.また,超幾何群の理論を用いたK3格子自己同型の構成を用いて「0以上18以下の任意の偶数に対して,その数をPicard数としてもつK3曲面であって,Siegel円板をもつ自己同型を許容するものが存在する」という結果を得た.この結果をまとめたプレプリント「K3 surfaces, Picard numbers and Siegel disks」を岩崎と共同で完成させた.なお,ここで用いた計算プログラムも,前述のものと同様に岩崎のホームページにて公開し,他の研究者と共有できるようにしている. 一方,K3曲面上の力学系のエントロピースペクトラムの問題について,最近,E. Bayer-Fluckigerなどによって大きな進展があった.それは整数論的な方法で格子とその上の自己同型を構成することで得られるものである.そこで我々も格子の整数論的な面からの研究も開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正のエントロピーを持つK3曲面の自己同型の存在は,K3格子上のスペクトル半径が1より大きい自己同型を構成することで示される.現在までに,このようなK3格子自己同型の例を,超幾何群の方法を用いて大量に用意することができ,それが「研究実績の概要」で述べたプレプリントの結果にも繋がった. 一方で,K3曲面のエントロピースペクトラムの決定のためには,具体例の構成だけでは不十分で,現れうるエントロピーを体系的に述べることができるような理論が必要になる.Bayer-Fluckigerらによる結果は非射影的なK3曲面のエントロピースペクトラムをかなり体系的に述べている.今年度の後半から開始した格子の整数論的な面からの研究から,Bayer-Fluckigerらの結果を用いることで,非射影的なK3曲面のエントロピースペクトラムを完全に決定できるだろうという見通しが具体的にたった. 以上の理由で研究をおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
上述のプレプリントでは,正のエントロピーを持つK3曲面の自己同型について考えているものの,主結果はエントロピースペクトラムの決定に迫るものではない.今後は,まず,Bayer-Fluckigerらの結果を用いて非射影的なK3曲面のエントロピースペクトラムを完全に決定することを目指す.その後,射影的なK3曲面のエントロピースペクトラムの決定にも取り組む.これは非射影的な場合よりも難しい問題を含んでいる. また,超幾何群の理論に格子の整数論的な面を取り込むことで,超幾何群の理論の発達させることも考えている. 研究により得られた結果は積極的に研究集会等で発表する.本科研費は主に研究発表や研究打ち合わせのための旅費として活用する予定である.
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