抑制テンプレート効果のメカニズムについて検討した。Arita et al. (2012) によって示された抑制テンプレート効果は,作業記憶内の妨害刺激の表象を基に抑制テンプレートを形成し,プロアクティブに妨害刺激を抑制するため,妨害刺激へ注意が向かないと仮定していた (積極的抑制仮説)。しかし,抑制特徴が注意を捕捉するか否か対立があり,抑制特徴が一度注意を捕捉し,その後抑制特徴は抑制されると主張する研究もある (探索後抑制仮説)。そこで,抑制テンプレート効果は,積極的抑制仮説と探索後抑制仮説のどちらに基づくかを文字プローブ課題を用いて検討した。また,これまで示されてきた抑制テンプレート効果は,探索画面に抑制特徴1種類と標的に成り得る特徴 (潜在標的特徴) が1種類の計2種類の特徴が呈示されるに限定されていた。そのため,抑制テンプレートの効果は,抑制特徴の抑制ではなく,探索画面呈示後に潜在標的特徴への促進テンプレートを形成したことによって生じている可能性が指摘されている (作り変え仮説)。作り変え仮説の可能性を排除するため,探索画面の潜在標的特徴の種類数を1あるいは6種類で操作した。その結果,抑制テンプレートの効果および積極的抑制は潜在標的特徴の種類数に依存することが明らかになった。すなわち,抑制テンプレート効果は抑制特徴の積極的抑制に基づくことが支持されたが,潜在標的特徴が1種類の事態でのみ生じることが明らかにされた。この結果は,抑制テンプレート効果に作り変え方略が寄与する可能性を示している。
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