研究課題/領域番号 |
21J20538
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤村 諒大 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 金属腐食 / 溶液分析 / 数値計算 / 鉄鋼材料 / 電気化学 |
研究実績の概要 |
昨年度構築したその場電気化学-ICP-OES溶液分析系の電極反応解析に対する有用性を示すために、銅を電極に用いた際の腐食抑制効果について定量した。銅に対して腐食抑制効果を示すベンゾトリアゾールを含む塩酸水溶液を一時的にフローすると銅の反応量よりも溶解量の方が少なくなることを見出した。これより銅の酸化生成物の一部がベンゾトリアゾールと複合体を形成して電極表面に残留することを明らかにし、複合体の生成量はベンゾトリアゾール濃度に依存することを定量することに成功した。昨年度得られたその場電気化学-ICP-OES溶液分析系の時間応答感度に関する研究成果と合わせて、本研究を学術論文にまとめた。 開発した本測定系を鉄鋼材料の電極反応のメカニズム解析に適用して、硫酸水溶液中で溶解する元素濃度の過渡分析を実施し、材料表面/水溶液界面の材料元素ごとの物質収支を定量した。材料中に含まれるAl量が増加すると、材料の腐食反応量は減少して母材である鉄成分の溶解量が少なくなることがわかった。不働態皮膜が形成する前段階には酸化生成物が材料表面に濃縮しており、その後の不働態皮膜の形成過程を支配していることを示唆した。不働態皮膜が形成する際には材料成分に対する鉄成分が瞬間的に増加しており、材料表面の物質輸送過程が鉄成分に支配されることを見出した。鉄鋼材料表面の深さ方向に対する元素組成について測定すると、Al種が電極表面に濃縮していることがわかった。これより材料に添加されたAlは材料表面で酸化物を形成することで鉄鋼材料の腐食反応を抑制する効果があることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は電気化学反応とICP-OESを用いた溶液分析の時間を同期させた測定系を金属材料の腐食反応に適用した。構築した測定系を腐食抑制剤を含む水溶液中の銅の腐食反応解析に適用し、本測定系が腐食抑制剤の研究にも適用可能なことを初めて示し、学術論文にまとめた。鉄鋼材料表面における反応量と水溶液中の溶出量の物質収支を明らかにすることで電極反応を高精度に解析した。その結果合金である鉄鋼材料表面の不働態皮膜の形成メカニズムについて、皮膜が形成する前に材料表面に存在する酸化生成物の濃度が重要な役割を果たしていることを明らかにした。また、溶液分析により得られた実験結果を理想的な数値計算モデルで表現できるようになりつつある。以上のことから本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
翌年度はFe-Cr-Alなどの三元系の鉄鋼材料も測定試料に含める。鉄鋼材料の腐食反応を促進する塩化物イオンを含む水溶液中で試料をアノード動電位分極してその場溶液分析を試みる。別途真空分析装置を用いて分極試験後の表面に存在する合金元素の深さ分布を分析する。腐食性の高い水溶液中で鉄鋼材料に対する材料添加元素の防食機構を明らかにすることを目指す。 これらの実験と並行して電気化学測定と溶液分析の実験データに基づく合金元素の反応量を有限要素法による数値計算で表現する。合金元素のアノード反応量を材料組成や溶液条件ごとにまとめることで鉄鋼材料の腐食反応に与える合金元素の効果を定量的に表した電極反応モデルを構築する。
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